England Swings!
広まる英国産ワイン、愛と情熱のバルフォア・ワイナリー
英国産のワインは日本でどのくらい知られているだろう。寒冷でぶどうは育たないと言われてきたこの英国でも、地球温暖化の影響もあって、1990年代ごろからワイン造りが着実に広まっている。
わたし自身は、ワインは好きなくせに、レッスンを何度受けても「おいしい!」のレベルから先に進めない。けれどもわたしにはワインを熱く語ってくれる頼もしい友人がいる。夫の古くからの友人で、ワイン好きが高じて自分で作り始めてしまったリチャードとレスリーのバルフォア・リン夫妻だ。ぶどう畑とワイナリーに囲まれたふたりの家に遊びに行くと、ワイン造りの話もたっぷり聞かせてくれる。今回は彼らが営むバルフォア・ワイナリー(Balfour Winery、旧称ハッシュヒース)をご紹介します。
ワイン造りが進む英国では、2023年初めの時点で、大小含めた国内のワイナリーの数が700軒を超えた。初めは見向きもされなかった品質も、徐々に上がって注目を集めている。7月にも、グローバル・スパークリング・マスターズ2023というスパークリングワインの品評会で、英国産の「ブラン・ド・ノワール」(デヴォン州サンドリッジ・バートン社)がフランスやイタリアという名産地のワインと肩を並べて最高賞に輝いたことが話題になった。遅れて始まったワイン造りだけに、前例に学んでいいとこ取りができる強みもあるそうだ。
英国のワイン造りは、国内では比較的暖かいイングランドとウェールズが中心になっている。中でも名前をよく聞くデンビーズ、ナイティンバー、チャペルダウン、ガスボーンなどの大手ワイナリーは、イングランド南東部のケント州、イースト・サセックス州、ウエスト・サセックス州に集まっていて、最近はロンドン市内にも都市型ワイナリーが登場している。
ワイン造りに大切な要素のひとつに土壌(テロワール)がある。氷河期に英国はフランスと地続きだったので、特にドーバー海峡寄りのイングランド南東部の土壌は、高級スパークリングワインの名産地、シャンパーニュ地方と同じ石灰質だ。だからこの地域ではスパークリングを得意としていて、バルフォアでも有名なシャンパンの造り手からぶどう提供の依頼を受けたことがある。国内で栽培されるぶどうの品種は、スパークリングに使われるシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエが主流で、製法もシャンパンと同じものが広く用いられている。
なんていうことを、知り合って17年の間にリチャードに教えてもらってきた。彼はわたしのような万年初心者を相手にしても、ワインの話になると熱くなる。少しだけ付け加えると、英国内で生産されるワインの約68%がスパークリングで、そのうちの98%がシャンパーニュ地方と同じ製法をとっている。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile