England Swings!
国宝級のくまの大冒険、最新映画「パディントン・イン・ペルー」(原題)
初めてパディントンに会ったのは、本の中だった。「あんこくのペルー」からひとりでロンドンにやってきてブラウン家に引き取られ、ちっとも悪気はないのに勘違いから騒ぎを起こす、あの愛らしいこぐまだ。
英国の作家マイケル・ボンドが1958年に発表した『くまのパディントン(Bear Called Paddington)』は、今では続編も含めて30ヶ国語で出版され、世界中で愛されている。わたしが読んだのは、1967年に日本で最初に刊行された翻訳(松岡亨子訳、福音館書店)だった。パディントンももちろんかわいかったけれど、親しくご近所づきあいをする大人たちを見て、「ロンドンって楽しそう」と思ったことが記憶に残っている(実際暮らしてみると、わが家の近くにくまは住んでいなかったけれど!)。
その後、英国では1966年にテレビでの朗読が始まり、ストップモーションを使ったレトロなほのぼの映像シリーズなどを経て、1989年にはアニメ版が登場。たくさんの子どもたちが、パディントンを友だちにして育ってきた。
さらに2014年の実写版の映画「パディントン」は世界中で大ヒット、2017年には2作目「パディントン2」も作られた(日本公開はそれぞれ2016年と2018年)。本世代のわたしには、実写版というのがピンと来なかったけれど、高度なCGで作り出されたもふもふの毛並みや豊かな顔の表情を見て、いっぺんで虜になってしまった。
11月8日に英国で公開になった映画「パディントン・イン・ペルー」は、シリーズ3作目だ。ロンドン暮らしにすっかり馴染み、正式に英国民にもなったパディントンが、育ての親のルーシーおばさんに会いに故郷のペルーに渡り、そこでもドタバタな大騒動を繰り広げる。
それでも、どこまでも善良で礼儀正しいこのくまを憎むことはできない。ドタバタな場面で笑いながら、子どもたちはパディントンの中にやさしさや正義感を見るだろうし、大人も自分の中の純粋な心を思い出して気持ちが温かくなってしまう。映画版は原作よりもパディントンのコミカルな部分を強調しているけれど、一緒に観る親世代も意識しているのか、本作では子どもの成長についても考えさせられる。大人だからこそぐっとくるシーンだ。
ペルーでパディントンを育てたパストゥーソおじさんとルーシーおばさんは、大の英国びいきだ。だからこのくまには、古き良き時代の英国紳士を思わせる習慣が身についている。言葉づかいは丁寧だし、あいさつには帽子を取る、大好物だって英国人が愛してやまないマーマレードだ。外国人(くま)なのに現代の英国人より英国らしいという設定も、郷愁を誘うのかもしれない。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile