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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

広まる英国産ワイン、愛と情熱のバルフォア・ワイナリー

 ある年はぶどうが霜にやられてしまい、リチャードはすっかりしょげかえっていた。つい、「宝くじで大金が当たったら、そのすごく高い霜対策のヒーターを真っ先に買ってプレゼントするよ!」と、わたしは申し出た。こんなに一所懸命になっている人を見ていたら、応援しないわけにはいかない。結果として、わたしが宝くじを買う前に、彼らは対策をばっちり整えてしまったけれど(でも、その約束は今もわたしの中で生きている)。

バルフォア・ワイナリーのインスタグラム投稿より、今は会員向けに行われている秋のぶどう収穫の様子。リチャードが膝の痛みに耐えてぶどうを摘んだ日、わたしたち夫婦ももちろん手伝った。せいぜい2時間くらいのことだったのに、ずっと中腰で作業していたので、後で体が痛くなったこと! それでも、おしゃべりしながらぶどうを1房ずつ手で摘むのは純粋に楽しい作業だったし、その後に圧搾機に入っていくぶどうを見ていたら、自分が収穫したぶどうたちがワインになるんだという感激が込み上げてきた。

 彼らのワイン造りにはレスリーお得意の遊び心も散りばめられている。地元のアーティストを起用してモダンなラベルを作ったり、ぶどう畑でヨガをしたり、ジャズの生演奏を聴きながらワイナリーで食事をしたり。ふたりとも人を楽しませることがもともと上手だ。ワイナリー近くにホテルを作った裏には、ワインをたっぷり飲んだお客さんが遠くまで帰らなくていいようにという気持ちがあった。

 個人的には、ワインやクラフトビールに家族の名前をつけているというのも好きでたまらない。レスリーはもちろん、ジェイク、ナネット、スカイ、ルークは子どもたち、さらに愛犬の1匹であるダルメシアンのリバティーまでワインの名前になっているんですよ!

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2018年にオープンしたワイナリーのレストランでは、ワインと食事、音楽、アートなどを組み合わせたイベントが催され、バルコニー席では目の前に広がるぶどう畑を眺めながらワインを楽しめる。あちこちに置かれたモダンアートはもちろんレスリーが選んだもので、ワイン片手にこのアートを巡るツアーも企画されている。筆者撮影(2022年)

 ご紹介したバルフォア・ワイナリーのサイトはこちら。スパークリングを含めた赤、白、ロゼの28種類のワインがあるほか、ケント名産のりんごやホップから、りんごジュースやサイダー(りんごの発泡酒)、クラフトビールも生産している。日本でも一部を購入することができ、会員であればこちらから、そのほか検索すると個人で購入できるサイトが出てくる。

 実は日本生まれで10歳まで日本で過ごしたレスリーは、日本に特別の思いを抱いている。日本のワイン界で活躍する女性が審査するサクラワインアワードで今年、バルフォアの1503クラシック・キュヴェがゴールド賞をいただいたよ、と嬉しそうに教えてくれたし、日本でバルフォアを広めることにも意欲的だ。日本に行きたいと予定を調整していて、少し話せる日本語もまた勉強し直している。

 今回はたまたま知っているバルフォア・ワイナリーをご紹介したけれど、英国のワイン造りは北部にも広がりつつあり、ますます勢いが増している。わたしも国内でワイナリー巡りをしつつ、これからも注目していくつもりだ。

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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