England Swings!
バースの街で紳士淑女の社交を追体験、ジェイン・オースティン・フェスティバル
先月、バースに行ってきた。ローマ時代の公衆浴場跡があって、bath(風呂)の語源になったことで知られる人気の観光地だ。18世紀から19世紀にかけて、優雅で華やかな美術、建築、文化、ファッションが流行した時代には紳士階級の保養地や社交場として栄えたため、今も美しい建物が多く残っており、街全体が世界遺産に登録されている。旅の目的はジェイン・オースティン・フェスティバルを見ることだった。
ジェイン・オースティン(1775 - 1817)は、バースが華やかな社交場だった頃に生きた英国の女性作家で、現在の10ポンド紙幣に顔が印刷されるほど英国では親しまれた存在だ。当時は、家督を継げるのは男子のみという限嗣相続制のもと、女性にとって裕福な男性のもとに嫁ぐことは人生を左右する大切な問題だった。オースティンの作品には、結婚を含めた女性の生き方や人間模様、社会の様子が皮肉や愛情を込めて描かれている。わたしも彼女の大ファンで、かたいテーマにもユーモアが混じっていて、結末が明るく読後感がさわやかなところも好きだ。鋭い人間観察に支えられたオースティンの小説は、社会のあり方がすっかり変わった現代でも色褪せることなく、今も世界中で読み継がれ、映画やドラマが作られている(記事の最後にオースティン作品のおすすめをお伝えします)。
ジェイン・オースティンは20代の頃、家族でバースに5年間滞在していた。彼女の小説には紳士淑女が集う華やかな舞踏会や条件のいい結婚相手を探して社交にはげむ人たちがたびたび登場するが、そのほとんどはバースでの経験に基づいて書かれている。その縁もあって、当時の建物が多く残るバースの街で、毎年9月にはジェイン・オースティン・フェスティバルが開催されている。オースティンのファンが集う同様のイベントは世界中にあるが、今年で20周年を迎えたこのフェスティバルがいちばん大きいだそうだ。
フェスティバルではバースでのオースティンの軌跡をたどり、彼女が経験した優雅な社交生活を追体験する。バースで彼女が暮らした家々を巡るツアーのほか、当時の文化を学ぶ講演、ダンスの練習や舞踏会、音楽会、芝居などのプログラムがあるけれど、最大の特徴は参加者が当時の装いをしていることだ。着ない人も参加することはできるが、ほとんどの人が思い思いの衣装を身にまとうことをを楽しみに世界中から集まってくる。だからお祭りのメインイベントは、「紳士淑女たち」が柔らかいモスリン生地のロングドレスや色鮮やかな軍服や紳士の上着をお披露目して街を練り歩くパレードだ。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile