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戦場を生き延びた兵士は、なぜアメリカで壊れるのか?
Chris Keane-REUTERS
<アフガニスタンやイラクの戦場から帰還したアメリカ兵が精神を病むケースが後を絶たない。戦場で戦友と共有した「仲間意識」を帰国後は持てなくなるから、という分析もある。しかし連帯感を感じられるコミュニティは戦場だけではないはずだ>(写真はアフガニスタンから帰還して家族との再会を喜ぶ米兵)
2001年の同時多発テロ以来、アメリカは15年もの間「戦時中」の状態にある。アメリカ本土での戦闘がなく、徴兵制度もないために、一般のアメリカ人はふだんそれを忘れがちだ。
軍人たちは、戦地で残酷な死を目撃し、友を失い、ときには人を殺さざるを得ない状況に追い込まれる。その過酷な戦場を生き延び、幸運に任期を終えた軍人は、なぜか、平和な母国に戻ってから精神的に壊れる。多くの退役軍人が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断を受け、障がい者扶助や治療を受けるが、それでもうつによる自殺者は後を絶たない。
『Tribe: On Homecoming and Belonging』の著者セバスチャン・ユンガーは、アフガニスタンで北部同盟と行動をともにしたり、陸軍部隊に同行してドキュメンタリー映画を作ったりしてきたノンフィクション作家だ。退役軍人とも親しく交友を続けている。
戦地で恐ろしい体験をした退役軍人が平和な母国に戻ってから苦しむ現象をユンガーは次のように説明する。
【参考記事】米軍がアフガン駐留を続けざるを得ない事情
生死をかけて闘わねばならない戦地では、部隊は仲間として強く団結する。「兵士は自分の部隊のなかで互いの人種、宗教、政党などの違いをまったく気にかけない」。ところが、戻ってくると、祖国アメリカは、収入格差、教育格差、人種、宗教で分断されている。そして人々は、平和な国で暮らしているのに、富裕層や政府、移民、そして大統領に対してまで激しい憎しみを公言する。
そんな祖国に戻った退役軍人は、「国のために喜んで命を捧げる覚悟があったのに、国のためにどう生きれば良いのかわからなくなってしまう」のだ。それが彼らの「絶望感」に繋がっているとユンガーは言う。
【参考記事】帰還後に自殺する若き米兵の叫び
退役軍人に必要なのは、仲間意識で繋がる「コミュニティ」だとユンガーは考えている。自分よりも弱い者、恵まれていない者を助けることができる誇り、勇敢さ、忠誠心、それらが人の心を根底から支えている。平和な国に戻った軍人が恐ろしい戦地を恋しがるのは、この仲間意識であり、「部族(tribe)」の感覚だ。
コミュニティ意識が必要なのは、退役軍人だけではない。現代アメリカが抱える問題の数々は、コミュニティ意識の喪失に関連しているというのがユンガーの説だ。
サブプライムローンを背景にした2008年の金融危機ではアメリカで900万人が失業し、500万の家族が自宅を失った。失業と自殺率には大きな関連があることで知られ、医学雑誌ランセットによると、この影響で増えた自殺数は推定5000人だという。世界恐慌を阻止する策として金融機関への公的資金注入が行われたが、金融危機に直接関係がある金融機関の上層部は、国民にこれほど多くの迷惑をかけながらも、誰も罪に問われていない。ユンガーは、「地面にゴミを平気で捨てる人は自分がその場を共有するひとりだという自覚がない」と例えるが、徹底的な利己主義になれるのは、社会を構成する他のメンバーとの精神的なコネクションがないからだ。これも「コミュニティ意識の喪失」だろう。
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