コラム

ついに行われた米国サイバー軍の昇格 自衛隊はついていけるのか

2018年05月10日(木)16時30分

アレグザンダー司令官は、サイバー攻撃とサイバー防衛の重要性が高まるにつれ、任期半ばにはサイバー軍を統合軍に昇格させるべきだと主張し始めた。アレグザンダーを受け継いだロジャーズ司令官も同じ考えを述べるようになる。

当初、米軍は、自分たちがサイバー攻撃を外国に対して行っていることを認めてしまえば、自軍に対する攻撃を正当化してしまうことになると考え、サイバー軍が設立されてもその作戦については口をつぐんできた。

ところが、2016年3月、アシュトン・カーター国防長官が演説し、いわゆる「イスラム国(IS)」へのサイバー攻撃を行っていることを公に認めた。カーター長官は「サイバー戦はISの戦闘員への指揮・統制能力を妨害し、通信の完全性への信頼にダメージを与え、物資補給の調整能力を奪うのが狙い」だと述べた。

2017年8月になると、ドナルド・トランプ大統領がサイバー軍を最上位の統合軍に昇格させるとツイッターで発表した。ロシアからの米国大統領選挙疑惑に揺れるトランプ政権においてサイバー軍が重視されていることが驚きをもって受け止められたが、それだけ米軍内でサイバーセキュリティが重要になってきているということだろう。

そして、ミサイル発射と核実験を強行していた北朝鮮に対し、トランプ大統領は、北朝鮮のインターネット接続妨害を命令した。当時、北朝鮮のインターネットは中国としか接続口がなかったが、そこにアクセスを殺到させるサービス拒否(DoS)攻撃を行ったようだ。

さらには、太平洋軍のハリー・ハリス司令官がクロスドメイン(領域横断)攻撃あるいはマルチドメイン戦闘の可能性を何度も指摘するようになった。つまり、陸、海、空、宇宙、サイバー空間の五つの領域を横断して戦いが行われるようになるというわけである。

日米同盟下で自衛隊はついていけるか

こうした流れを見ると、サイバー軍の昇格は時間の問題であったかのようにも見える。しかし、サイバー軍の規模はおそらく6000〜7000人の間であろう。それに対して統合軍の中で最大の太平洋軍は37万人を擁している。規模の差は歴然としており、その点では同格とは呼びにくい。

それでも、その性質を考えれば、人数の問題ではないということも言えるかもしれない。中国のサイバー部隊は、2015年末に新設された戦略支援部隊に含められていると考えているが、その数の推定は数万人から数十万人まで幅がありはっきりしない。それでも、実力は米軍のほうが上というのが衆目の一致するところである。

サイバー軍は最上位の統合軍になった。米国はサイバー攻撃の意図を隠さなくなった。サイバー攻撃は今後の国際紛争において不可欠の要素になっている。米国の友好国も敵対国もサイバー部隊の能力向上に取り組むことになるだろう。

日米同盟の下で日本はどうするか。陸、海、空の自衛隊の中での統合運用が進められてきているが、米軍と自衛隊との間の統合運用も近年の重要な課題になっている。2017年末、防衛省・自衛隊は、宇宙・サイバー空間、電子戦の担当部隊を統括し、司令部機能を持つ上級部隊を新設する方針を固めたと報じられた。そして、今年後半には防衛計画の大綱が見直されることになっている。規模では米軍にどうしてもかなわないとしても、能力の向上は必須の課題である。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

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