コラム

日本の路地を彷徨い、人生が変わった「不思議と迷わなかった」

2019年09月27日(金)11時55分

From Nadia Anemiche @rabbittears

<日本への旅をきっかけに写真人生に浸かりだしたフランス人グラフィックデザイナー、ナディア・アンミッシュ。今では毎年日本を訪れ、「日本で何をやりたいのか分かるようになってきた」と言う>

異国への旅は、アーティストや写真家をしばしば大きく変貌させる。今回紹介するフランス人のナディア・アンミッシュも、異国への旅を機に、写真人生にどっぷり浸かりだした1人だ。本職はグラフィックデザイナー。18歳の娘を持つ母でもある。アートスクール時代に写真を学んだことはあったが、それ以外は本格的に写真に関わったことはなかった。

きっかけになったのは、新しいカメラを伴って訪れた2010年の日本、東京への旅だ。グラフィックデザイナーが持つ独特の臭覚の1つである、色(カラー)への反応が大きく刺激されたらしい。彼女いわく、日常の街中に溢れるさまざまな「色」に瞬く間に魅惑されてしまった。それは後に『Tokyo Colors』という写真集になる。

色以外にもアンミッシュの作品は、グラフィックデザイナーらしい感覚で溢れている。シンプルで、線(ライン)や影(シャドー)を活かし、あるいは幾何学的にフレームの中にさらにフレームを作った写真を生み出している。

同時に、何年も前とはいえ、写真を学校で学んだことがあるせいか、「決定的瞬間」を重視し、クロップ(トリミング・カット)なしの撮影したときのままの画角を基本にしているという。とはいえ、そうした要素は彼女の作品の表面的な属性に過ぎないだろう。

2011年の3月、彼女が初めて日本を訪れた数カ月後に東日本大震災が起こる。津波と放射線で一瞬にして全てが変わってしまったその惨状は、彼女をさらに変えていくきっかけになった。自身が惚れ込んだ日本の危機に対し、何かをしなければならないと感じた彼女は、セラミックアーティストの友人とともに、「思いやり」のシンボルとして2248個の器を使用した「泣くウサギ」のインスタレーション・プロジェクトを行なったのである。

ウサギは2011年の干支だ。翌2012年から彼女が始めたインスタグラムのアカウント名「rabbittears」も、その意味はウサギの涙。とはいえ、本当に彼女の中で何かが弾け出すのはまだ数年先のことだった。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7

ワールド

ロシアのミサイル「ICBMでない」と西側当局者、情

ワールド

トルコ中銀、主要金利50%に据え置き 12月の利下

ワールド

レバノン、停戦案修正を要求 イスラエルの即時撤退と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story