何が悪かったのか:アフガニスタン政権瓦解を生んだ国際社会の失敗
ここで問題になるのが、冷戦時代からの「現状維持」の姿勢、さらにさかのぼってはモンロー主義に代表される米国の孤立主義と、国際的な人道的軍事活動への積極的な参加の矛盾である。冷戦期において米国が他国に軍事介入するのは、グレナダやパナマのように、基本的には米政権にとって都合の悪い政権を取り除くための行動であって、その後の国家建設にはかかわってこなかった。だが、冷戦後、「人道的」と冠する軍事活動に関与するなかで、米国は軍事介入のあとの平和構築行動にも否応なく関わらざるを得なくなる。
2003年からカナダ政府の政策顧問を務めてきたオタワ大学の紛争・平和学の専門家、ローランド・パリスは、ティモシー・スィスクとの共著で、「平和構築には国家建設の要素が不可欠である」と主張しているが、人道的介入行動のなかで、紛争で疲弊し破綻した国家を建て直す、あるいは国家制度を支える社会基盤を整えるとなると、それ相応のコストと労力を払わなければならない。そのことは当然介入側には大きな負担であり、それを嫌って米政権は徐々にコスト削減の方向に進んでいった。9.11後のアフガニスタン攻撃とその後の復興支援は、まさにその文脈で行われたものであり、そこに投入されたコストは、他の軍事介入事例と比較して圧倒的に少なかった。米シンクタンクのランド研究所がアフガニスタン戦争から2年後に発表した報告書「国家建設における米国の役割」は、人口比でみた米軍駐留人数を比較し、コソボ、ボスニアには多くの兵員を投入しているが、アフガニスタンは当初からわずかな兵員しか投入しておらず、資金投入レベルもコソボでの資金投入の25分の1でしかなかった、と指摘している。
そのため米国は、国際機関や日本など同盟国に、紛争後の国家建設への関与を仰いだ。ブッシュ政権に始まり、歴代の米政権は繰り返し、「米軍がアフガニスタンで行っているのは国家建設ではない」と言い続け、それは国際機関の仕事、と責任転嫁した。だが、結局はボロボロのアフガニスタン政権を支え、国家建設に携わらざるを得ない。その無計画さ、中途半端さが、上述したSIGARの報告書の「責任の所在がバラバラ」との批判につながり、「漏斗に大量の水を流し込んでいるようなものだ」と嘆くUSAIDの元幹部の発言につながる。
国際社会の怠慢
問題は無責任体制だけではない。アフガニスタン復興が数々の国際機関をはじめ多くのドナーからの資金供与によって賄われていることで、援助計画自体もバラバラになった。ノルウェーのアフガニスタン問題専門家、アストリ・スフルケは、その2012年の著書で、アフガニスタン復興があまりにもマルチナショナルで多様なアクターによって担われているため、不必要に事態が複雑化している、と批判する。各ドナーは、援助の効果や全体での復興計画の位置付けよりも、ドナーに対して説明がつくかどうか、ドナーが喜ぶかどうかで援助案件を選ぶ。膨大な資金が投入されても、それが結局現地社会のためにはなっていない、というのである。
これらのことをどう考えるべきか。米国が、特にバイデン政権がアフガニスタン情勢の処理に失敗したことは、疑いない事実だ。だが、それは、冷戦後各地で発生した国家破綻や非人道的政策の横行に対して、国際社会が何かするべきという声に対して、冷戦終結から30年を経てもなお、有効な方法を見いだせていないことに問題の根源がある。一強だった米国に任せても無理だということは、すでにブッシュ政権末期から明らかだったし、肝心の米国が完全に逃げ腰だった。だが、大国の軍事力に代わる有効な人道的介入の方策は、模索されないまま放置されたか、模索されても失敗に終わった。
2011年、「アラブの春」でリビアのカダフィ政権が倒れたとき、NATOやEU、アラブ連盟の間で生まれた協調関係は、一瞬ながらも「保護する責任」に基づく「介入」が成功するかとの期待を生んだ。だがそのリビアも含め、「アラブの春」での介入事例はいずれも、悲惨な結末をたどっている。2010年代後半に参加した国際学会では、「人道的介入」を巡る研究報告のいずれもが、悲観的で将来の展望もない、暗い議論に終始していた。どうしたら大国の軍事力に依存せずに人間の安全保障を確保するか、といった議論は、すっかり勢いを失い、途絶えてしまったように見える。
9.11とアフガニスタン戦争から20年を経て、何を悔やむべきかといえば、この点である。大国に、帝国主義時代の「ノブリス・オブリージュ(高貴たるものの義務)」を求めても意味がない。真剣に進めるべきは、大国の力や知識や善行に頼ったり期待したりしなくてもよい、人々の生活を守る国際システムを追求することではないか。そのことを20年間怠ってきたことが、猛省される。
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