コラム

コロナ危機の渦中でも止まらない米政治の党派対立

2020年04月07日(火)17時45分

こうした大統領の姿勢は、様々に悪い影響を及ぼしています。例えば、3月11日の時点で大統領は「欧州からの入国禁止」を打ち出しました。本当はしっかりデータを見せて、冷静に国民や国際社会を説得するような発表をするべきでした。

ですが、「いつものスタイル」で発表したために、社会は「いつもの孤立主義」から来たパフォーマンスであり、危機に対しては「無策」という誤った理解をしてしまったのです。その結果として混乱だけが広がり、現実的な対応としての国境閉鎖は遅れてしまったのです。

現時点での問題はもっと深刻です。ファウチ博士を始めとした専門家は、とにかく「社会的な接触の極小化」によって、医療崩壊を緩和することが最優先だとしています。ところが、全米での死亡者が1万人を超えた現在でも、ロックダウンを拒否する州が残っているのです。

民主党予備選の延期を認めず

例えば、オクラホマ、アイオワ、ネブラスカ、アーカンソー、アラバマなどの州では「外出禁止令」を発動していません。全て共和党知事の州で、トランプの口ぐせである「治療(コロナ対策)のために本人(経済)を殺しては本末転倒」という論理を掲げて抵抗しているのです。

現在は国内線の航空路線もほとんどが停止していますから、こうした保守州の抵抗が他州に与える影響は大きくはないかもしれません。ですが、こうした州の「勝手」を許しているというのは、トランプが来たるべき大統領選を意識してやっているのは明白で、結果的に危機の渦中でも左右対立を煽ろうという動きになっているのです。

例えば、4月7日(火)に予定されていたウィスコンシン州予備選は、民主党の州知事が延期を求めたにも関わらず、共和党の党利党略で潰されて(日程延期の知事令について、無効を求める州議会多数派の共和党の訴えを州最高裁が認める)「予定通り実施」という変則的な対応になっています。コロナ危機の中で予備選を行えば、危険が増えて民主党の党勢が弱体化するという計算や州の政局における力関係上で有利になるという計算があるようですが、時期が時期だけに問題だと思います。

その民主党の予備選を優勢に戦っているバイデン候補は、コロナ対策に関して大統領との「超党派協議」に入ろうと提案しましたが、大統領は真剣には受け止めませんでした。

3月末に成立した2兆ドルの緊急対策法は、超党派で可決できましたが、このまま左右対立が続くようですと、この次の対策、そして経済や社会における危機からの「出口戦略」において、国策が一本化できない危険もあると思います。コロナ危機と同時並行する形で、アメリカでは政治の危機も進行しているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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