コラム

コロナ危機の渦中でも止まらない米政治の党派対立

2020年04月07日(火)17時45分

これだけの事態を前にしても「トランプ流」を変えない Joshua Roberts-REUTERS

<秋の大統領選を意識するトランプは、この危機の只中にあっても党派対立を煽ろうとしている>

建国以来のアメリカ政治は、左右の対立構図を常に抱えてきました。ですが、国家全体が危機に陥った時には、対立はひとまず棚に上げて団結を誇り、一丸となって危機に対処するという伝統もあります。

今回のコロナ危機に関しては、4月5日にジェローム・アダムス公衆衛生長官が宣言したように「第二次大戦」や「9・11」に匹敵する危機だと言われています。確かに、第二次大戦や「9・11」の際には、与野党は団結して政権を支え、危機に対処する動きとなっています。

ですが、今回のコロナ危機に関しては、どうもそうではないようです。確かに、トランプ大統領は、3月13日の金曜日を転換点として、毎日必ず定例会見を行うようになり、最新の情勢に基づいて指示や布告を出しています。

そうした活動はとりあえず機能していますし、国民の支持もあります。また、その結果として、大統領の支持率もかなり改善しています。ですが、その支持というのは、実は大統領に対するものではなく、専門家のブレーンであるアンソニー・ファウチ博士、デボラ・バークス博士、そしてアダムス長官の3人への支持だという声もあります。

というのは、大統領は危機に際しても全く「トランプ流」のスタイルを変えていないからです。

各州が人工呼吸器の要求を「水増し」?

例えばですが、感染爆発が起きている州では「人工呼吸器の確保」が切迫した課題になっています。こうした事態を見越して、各州の知事は事前に連邦政府に対して「人工呼吸器の台数確保の要求」をしてきました。ですが、大統領は「要求を多めに吹っかけている」などと批判し続け、今でも「各州の要求は水増しがある」などと悪態をついています。

ニューヨーク州などの医療現場では、人工呼吸器の不足のために「麻酔用機材」や「動物用人工呼吸器」で代用したり、2人の患者を1台の人工呼吸器で管理したりする厳しい綱渡りが続いています。更に最悪の場合には、救命対象者を選別するという悲劇的な事態も発生しています。つまり1台1台が人命に直結しているのですが、それでも大統領の姿勢は変わりません。

共通の理念に立つことはせず、敵味方を区別して取引で物事を決着させるという、「トランプ流」を、危機が最悪期に差し掛かり、毎日1000人という人が救命できずに亡くなるという事態においても変えていないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指

ビジネス

アングル:データセンター対応で化石燃料使用急増の恐

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story