コラム

大富豪ブルームバーグが、民主党予備選を勝ち抜く可能性は?

2020年02月18日(火)16時40分

13日にテキサス州ヒューストンで選挙イベントを開催したブルームバーグ Go Nakamura-REUTERS

<スーパー・チューズデー以降に民主党予備選に参戦する「奇策」に出たブルームバーグ、これに対して党内左派を中心に激しい批判が起こっている>

民主党の予備選は、緒戦のアイオワ党員集会、2戦目のニューハンプシャー州予備選が終了した時点で、左派を代表するバーニー・サンダース候補、中道派を代表するピート・ブティジェッジ候補、同じく中道のエイミー・クロブチャー候補の3人が激しく競っています。一方で、ウォーレン、バイデンの2候補は失速気味となっており、3月3日のスーパー・チューズデーで大敗するようだと、後がなくなるでしょう。

これに加えて、不気味な存在として徐々に存在感を増しているのが、マイケル・ブルームバーグ候補です。ブルームバーグは、自分の名前を冠した「ブルームバーグ」という巨大金融情報企業を創業した実業家です。というより株式情報がテレックスやFAXだった1980年代に、株価情報を顧客のコンピュータ端末にリアルタイムで流し、また1990年代には全世界の上場企業の株式情報をネット配信するなど、世界におけるビジネスのインフラを塗り替えた巨人と言っても過言ではないと思います。

その業績と成果を考えれば、2020年2月現在で618億ドル(約6兆8000億円)という個人資産、これは世界の大富豪の中でランキング12位だという(「フォーブス」誌による)のですが、それだけの資産を誇っているのも不思議ではありません。

ブルームバーグは、ビジネスを後継者たちにまかせた後は、公共セクターに進出して、2002年から13年まで3期12年にわたってニューヨーク市長を務めました。この時期は、ニューヨークが9.11の同時多発テロからの復興を遂げ、またリーマン・ショックによる経済の冷え込みも経験することになりましたが、市長としては常に高い支持率を保持していました。

ブルームバーグの「強い思い」とは

当初は、証券界に身を置くビジネスマンとして共和党支持でしたが、共和党が草の根保守に支持基盤をシフトして、徐々に保守化していくのに反発して無所属となり、2018年には一連のトランプ現象への強い反発から民主党入りしています。その過程では、ニューヨーク州選出の上院議員時代に一緒に仕事をしたヒラリー・クリントンを強く支持しており、2016年の大統領選でもヒラリーの応援団でした。

そのブルームバーグにとって、今回の大統領選出馬というのは、3つの強い思いから成り立っていると考えられます。1つは、国家の品位を傷つけ、同時に自由経済や自由貿易を傷つけているトランプ政権を打倒したいという思いです。2つ目は、同じように自由経済の敵である「社会主義者サンダース」にブレーキをかけたいという、これまた強い思いです。3つ目には、市長時代から強く主張している銃規制強化の実現です。

ブルームバーグは、2月の選挙戦(アイオワ、ニューハンプシャー、ネバダ、サウスカロライナ)は回避して、3月3日のスーパー・チューズデーに直接参戦するという「奇策」に出ています。戦術的には、無尽蔵と言うべきポケットマネーを投入して、テレビ広告を大胆に打ち続けるという作戦で、現時点では全国レベルの支持率平均値では、サンダース、バイデンに続く3位にまで上昇しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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