コラム

イギリス住宅バブルははじける寸前、か

2023年07月27日(木)16時20分
ロンドンの住宅市場

法外に上昇し続けたロンドンの住宅市場に崩壊の兆し? HANNAH MCKAY-REUTERS

<長年の低金利政策のもと上昇し続けたイギリスの住宅市場に崩壊の兆し。家を持ちたくても持てなかった世代は、大暴落を夢見ているかもしれないが......>

通常、「世界の終末」とは新聞1面でお目にかかりたい言葉ではないが、今回の場合はかなりの人々が「上等だ、来るなら来い」と思うだろう。なぜなら「ロンドンは住宅価格の終末に向かっているのか」との見出しは、法外に値上がりした住宅市場から締め出されている数多くのイギリス人にとって、かすかな希望の光となり得るからだ。

これはおそらくイギリス社会最大の分断──「家を持てる者」と「持たざる者」の分断だ。持てる者は概して、望むような生活スペースを作り、所帯を持ち、「資産」を築く機会を得られる。ここ数十年にわたってイギリスの不動産価格は、ほんの一時の下落を除いては上昇に上昇を重ねてきた。

 
 
 
 

裏を返せば、より貧しくより若い人々は、賃貸暮らしから延々と抜け出せなくなっているようだ。高い賃料のせいで、持ち家を買うための貯金もできない。「ブーメラン世代」は貯金のため、巣立ったはずの実家に舞い戻らざるを得なくなっている。

平均的にイギリスの住宅価格は、1990年代後半の3倍以上、ロンドンの多くやその他の人気エリアではそれ以上、値上がりしている。経済法則はほぼ機能していないかのようだ。歴史的に見れば住宅価格の平均は平均年収の3.5~5倍というところ。それが今では7~9倍ほどに膨れ上がり、ここ10年余りを見てもそのくらいが続いている。

この状況は、金融危機や、「大災害」が予想されたブレグジットや、コロナ禍でも変わらなかった。もちろんそれが可能だったのは、金利が極めて低かったため。人々は次々借金する必要があったが、ローン返済のコストは低いままだった。

冒頭に紹介した非難めいた記事を英イブニング・スタンダード紙が1面で掲げたのは、こうした時代が終わろうとしているからだ。イングランド銀行(英中央銀行)のゼロ金利政策は、徐々に急速に方向転換されつつある。2020年の0.1%から今では5%になり、さらなる利上げが予想される。それに従い住宅ローン金利も上昇するため、世帯によっては毎月の返済額が500ポンド(約9万円)以上、最悪の場合1000ポンドも余計にかかることになる。

物言う住宅所有者に屈する政府

大金を借りる人はそのリスクを認識しているものと考えるのが普通かもしれない。だが住宅に関しては、通常の論理がいつも当てはまるとは限らない。人は住宅を「投資」ではなく「権利」と捉える。

彼らは自らの賭けで分が悪くなると抗議し、政府を非難する。金利は長い間ずっと異常に低かったのだから、今後もそれが続いて当然だと考えている。自分よりも前に家を買った人は持ち家が下落することがなかったのだから、自分もそれが当然だと思っている。彼らは自宅が物理的に縮小したわけでもないのに「マイナス資産(ローンで購入した資産の評価額がローン残高より小さい状態)」に陥ることに憤り、「対策すべきだ!」と声を上げる。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪当局、厳格な住宅ローン規制維持 雇用市場減速を警

ワールド

台湾の北に中国気球1機、半年ぶり飛来=国防部

ワールド

ウルグアイ大統領選、左派の野党候補オルシ氏が勝利 

ワールド

英国の労働環境は欧州最悪レベル、激務や自主性制限で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story