コラム

イギリスで「学生のような(質素な)生活」は、もはや死語?

2019年12月03日(火)15時00分

試験が終了した打ち上げで大騒ぎするオクスフォード大学の学生たち Stefan Wermuth-REUTERS

<学費や生活費で莫大な借金を背負って卒業するイギリスの大学生が、学費無料だった昔の学生よりも贅沢や浪費で借金を膨らませている>

僕は気に入っている言い回しの1つをそろそろ取り下げなければいけないようだ――「学生のように生活する」。

僕はこの言葉をよく使っていて、30代になってからも、まともに稼げるようになってからも、学生みたいに生活してるよ、と人に話していた。それはつまり、安い家に住み、めったに外食せず、洋服は文字通り擦り切れるまで着て、決してタクシーは使わない......などだ。

旅行はしたが、宿は安いホステル。テレビやビデオデッキ、自転車、冷蔵庫は全てタダで手に入れた(生活をアップグレードした人々からもらったものだ)。大学時代には、使用済みの2つのティーバッグを使って3杯目の紅茶を入れることを覚えた(哀れながら1日に2ペンスの節約になる)。実のところ、僕は今でもこれをやっているから、その意味では僕はまだ「学生のように」生活している......あらら、この時代遅れの言い回しをまた使ってしまった。

こうしたライフスタイルは、今の学生たちには完全になじみのないものだろう。最近僕は、地元のジムで会った学生に話し掛けた(僕の出身大学のロゴ入りウェアを着ていたからだ)。

誕生日にキプロス旅行

僕が大学卒業後に日本に住んでいたことを話すと、彼は言った。「僕は日本には一度しか行ったことないです」。僕が衝撃を受けたのは、まるでもっとたくさん行っていて当然、という感じの「一度しか」という言葉だった。

僕の大学時代、もし学生仲間が日本みたいにエキゾチックで遠い国に旅行したとなったら、たちまち知れ渡っただろう(インドネシアに旅行したある男子学生は、ニックネームがついて「ジャカルタ・ロブ・カーター」なんて呼ばれていた)。

今の学生にとっては、1000ポンドを超える旅費をかけて遠い国に外国旅行するのはいたって普通なようだ(オーストラリアは特に人気)。これは一生に一度の経験とか、死ぬまでにやっておきたいことリストとかいうたぐいのものではなく、ライフスタイルの一部なのだ。

今の学生は、20歳の誕生日記念に友人たちを誘って地中海のキプロスで長めの週末旅行を企画し、友人たちもみんな参加するような時代にいる。FOMO(fear of missing out=楽しいことから自分だけ取り残されるのではという不安)は若者の生活にはつきもの。参加しないことは、もう完全な仲間ではないことを意味する。もちろん、グループ内のそれぞれの誕生日が来るたびに似たような記念イベントが企画されるだろうから、そのたび全員が参加することになる。結局のところ、彼らの言うとおりYOLO(you only live once=人生は一度きり)なのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏の政府支出削減、26年会計年度は1500億

ワールド

米、対中追加関税は計145% フェンタニル対策で発

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、政策明確化まで金融政策据え置きを

ワールド

トランプ氏、日鉄によるUSスチール買収の必要性に懐
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた考古学者が「証拠」とみなす「見事な遺物」とは?
  • 4
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    【クイズ】ペットとして、日本で1番人気の「犬種」は…
  • 10
    「宮殿は我慢ならない」王室ジョークにも余裕の笑み…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story