コラム

「ブレグジット大混乱」報道では見えない真のイギリスの現状

2019年03月27日(水)16時45分

意外に正常に続いている日常

第5に、ブレグジットは驚くほどうんざりするものになっている。僕は以前には、真の政治的大混乱の時期を目にすることはきっと劇的な体験に違いないと考えていた。でも大多数の人々は、この状況に心から嫌気がさしている。国民投票からおよそ3年がたってもいまだに議論が続いているのは、人々にとっては信じ難いことだ。

夕食の席でブレグジットの話題が上がると人々は嫌な顔をし、テレビでこの話題が出るとチャンネルを変える。イギリス国民は例えるなら、航空機の乗客になったような感じだ。ブレグジットに投票することで、僕たちは目的地を決め、政治家が僕たちを連れて行ってくれてくれると思った。だが僕たちは、どこに着陸するか、あるいは出発地に引き返すべきか、と乗員が延々と言い争う間ずっと上空を旋回し続けているように見える。

離脱に投票した人々の多くが心変わりをした、というようなはっきりした兆候は見当たらないけれど、もしも彼らが心変わりをしたとしたら、それは純粋に落胆したせいであり、政治家はもう他の重要な課題に取り組んでほしいと望んでいるからだろう。

最後のポイントとして、日々の暮らしはほぼ正常に続いている。つまり、全体的に見てみれば人々は今も買い物やパブに行き、友人に会い、笑い、日常の出来事について話し、子供をどの学校に行かせるべきかなどといったことに頭を悩ませている。ブレグジットが日々の心配事リストの項目に持ち上がることなどめったにない。

離脱に投票すればただちに経済的打撃に見舞われるだろうと言われてきたが、それは現実にならなかった。3年間の混乱や、ブレグジットをめぐる「混沌と危機」が深刻な影響をもたらしているだろうと思われているかもしれない。でも今のイギリスはこの40年超で最低の失業率(4%)で、インフレ率は目標に近い1.9%。GDP成長率は緩やか(1.3%)ながら好調の域にとどまっている。一応比較すると、フランスの失業率は8.5%、ドイツのGDP成長率は1.5%でイタリアのインフレ率は0.9%だ。

ブレグジットに敵意を抱く人でさえ、イギリス経済は「驚くほど耐性が高い」ことが証明されたと恨めしそうに語っている。公平に言えば現状のイギリスに関して数字を見ると良いものも悪いものも入り混じっているが、多くの人々が予言し、いまだに一部の人々はその証拠をみつけてやろうと躍起になっている、「経済的大惨事」とは程遠い状況だ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゴールドマン、米自動車販売予想を約100万台下方修

ビジネス

関税の米経済への影響「不透明」、足元堅調も=ボウマ

ワールド

米、豪州への原潜売却巡り慎重論 中国への抑止力に疑

ビジネス

米3月CPI、前月比が約5年ぶり下落 関税導入で改
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた考古学者が「証拠」とみなす「見事な遺物」とは?
  • 4
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    【クイズ】ペットとして、日本で1番人気の「犬種」は…
  • 10
    「宮殿は我慢ならない」王室ジョークにも余裕の笑み…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story