コラム

英空軍はイギリス人が今も熱狂する第2次大戦の英雄

2018年07月25日(水)18時40分

英空軍100周年の記念式典でロンドン上空を儀礼飛行する英軍機 Hannah Mckay-REUTERS

<英空軍100周年にイギリス人が熱狂するのは、第2次大戦でのドイツとの激戦が歴史に刻まれているから>

ここのところ、バースデーシーズンが続いているようだ。前回、僕はこのブログでイギリスの医療制度、国民保健サービス(NHS)が70歳を迎えることについて書いた。そのちょうど数日後、イギリス空軍(RAF)の創設100周年が祝われた。

祝賀行事では、バッキンガム宮殿前のザ・マル(大通り)から最高の眺めが期待できる圧巻の儀礼飛行が行われたのだが、僕はあいにくその日ロンドンに行けなかったので、住んでいる町でどうにか見物しようと試みた。事前の飛行ルート案内では、僕の町を「通過する」とされていたが、この情報だけでは町の真上を飛ぶのか、遠くのほうに見えるという程度なのか、腹立たしいほどに不明確だ(結局、この2つの間を取ったような感じだった)。

たぶん、一番見えそうなのは近場の丘だろう、と検討をつけたら、僕と同じことを考えた人がいっぱいいたので驚いた。そこはちょっとしたお祭り騒ぎ。有名なアクロバット飛行隊「レッドアローズ」が色付きスモークで僕らに「挨拶」すると、見物人からは拍手と歓声がわき起こった。

長きにわたりこの島国を外敵の侵攻から守り続けてきたという役割ゆえに、イギリスでは昔から海軍の人気が高い。でも、今日ではもしかするとRAFが「バトル・オブ・ブリテン」(第2次大戦中のイギリス本土をめぐる英空軍と独空軍の戦い)で活躍したことのほうに大きな愛着を感じる人が多いかもしれない。

言い伝えによると少人数のRAFは、数では大幅に差をつけられていたドイツ空軍を撃退し、ヒトラーに1940年のイギリス上陸作戦をあきらめさせたという。チャーチル首相(当時)が戦時中の演説で、これをイギリスの「最高の時」と呼んだという逸話は有名だ。

神話的に誇張された部分も

イギリス国民は、1943年にRAFが独ルール工業地帯にある3カ所のダムを攻撃し、ドイツ産業に打撃を与えた「ダムバスターズ」の襲撃にも畏敬の念を抱いている。この攻撃は、科学的発明(爆弾が水切りの石のように水面を跳ねながら進んでダムを破壊する力を増す、バーンズ・ウォリスが開発した有名な「反跳爆弾」)と、爆撃機乗員のたぐいまれなる勇気と技能とが結集したものだった。この作戦は後に、イギリス人ならほぼ誰しもいつかは目にする有名映画になった。テーマ曲が流れれば瞬時に分かるほどだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story