コラム

僕が「好きじゃない」ホームレスを「支援したい」理由

2018年02月15日(木)17時00分

イギリス中部の都市バーミンガムのホームレス Darren Staples-REUTERS

<イギリスでは一時期改善していたホームレス問題がここ数年の緊縮財政で再び悪化。彼らにカネを恵むのではなく真の解決を図ることにはさまざまな利点があるはず>

ひどいと思われるかもしれないが......僕はホームレスの人々が好きではない。だから、彼らを救うためにもっと対策が取られるべきだと切望している。どうか、僕の一見すると薄情で、矛盾しているようにも見える考えを説明させてほしい。

昨年、僕の家のすぐ前でケンカが起こり、あまりにすさまじい罵り合いが聞こえてこれは暴力沙汰になるぞと思ったので、警察に電話しなければならなかった。何が起こっているのかは見えなかったが、声ははっきりと聞こえたので2つのホームレスのグループが衝突しているのが分かった。こうしたトラブルはそう珍しいことではない。

警察が到着するまでに、女性1人がおなかを殴られ、男性1人が頭のあたりを打ちのめされていた。この男性は路上を数百メートルふらついて道の真ん中で倒れ、ひどく出血していた。1人の男性が警察に繰り返し、このけがした女性は「ほんの2日前に昏睡状態から覚めたばかりなんだ」と話していたのを僕はよく覚えている。

この事件は、僕の静かな夜をぶち壊しにした。どれだけのものが費やされたかも考えずにはいられなかった。国民保健サービス(NHS)と警察がどうしようもなく人手不足なこのご時世に、このけんかのせいでパトカー2台と、おそらくは退院間もない女性を再び病院に運ぶ救急車1台が必要になった。

ホームレスは、飲酒やドラッグといった理由で、病院などの公共サービスを不釣り合いなほどによく使う人々だ。さらに彼らは、初期症状のうちに一般病院を受診するのではなく、深刻な事態になってから救急センターに行くことが多い。こうして彼らは「超」最高額の治療を受けることになる。

ホームレスは明らかに「緊縮財政のイギリス」下で再び増加している。この問題は1980年代と90年代に深刻だったが、ブレア政権の政策によって長年、劇的に減少してきた。だが今となっては、僕が日々思い知らされるほどに、この問題は復活してしまった。

中流層の有権者たちがカギになる

ホームレスは町中至る所で物乞いをしている。僕は1日に何度も「カネを恵んでもらえないか」と頼まれることがある(時には外出中、1~2時間に4回も遭遇することもある)。

正直に言うと、特にその人物が少し前にその公園で強いシードルをがぶ飲みしているところを見ていたりなんかすると、僕はムッとしてしまう。ある時は1人の男が、カネを恵んでほしいと丁重に頼んできたが、明らかにその前の晩に、「鼓膜を殴りつけてやろうか」と酔っ払って僕を脅してきた男だった(その晩、僕が彼の言葉を無視したのでからまれた)。

ホームレス慈善団体は、カネを恵むことはホームレスを助けることにならないと指摘している。そうしたカネの大半はドラッグに費やされるだけだ。事実上、彼らが自滅的なライフスタイル(彼らの平均寿命は47歳だ)を続けられるよう手を貸すことになってしまう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

グリーンランドに「フリーダムシティ」構想、米ハイテ

ワールド

焦点:「化粧品と性玩具」の小包が連続爆発、欧州襲う

ワールド

米とウクライナ、鉱物資源アクセス巡り協議 打開困難

ビジネス

米国株式市場=反発、ダウ619ドル高 波乱続くとの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 7
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 8
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    関税ショックは株だけじゃない、米国債の信用崩壊も…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 9
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 10
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story