コラム

僕が「好きじゃない」ホームレスを「支援したい」理由

2018年02月15日(木)17時00分

ほかにも、家の前でのけんか騒動の数週間前には、ホームレスがスーパーマーケットで盗みをするのを目撃した。カップルが僕の家の通りで、茂みに隠そうともせずにドラッグを打っているのも見た。飲みかけのビールの缶を塀越しに道路に投げつけた男も目にした(缶は僕の前を歩いていた男に危うくぶつかるところだった)。ホームレスの男たちは、たとえ公衆トイレが近くにある場合でも、しょっちゅう人前で立ち小便する。

イギリスのホームレス問題は解決できないように「見える」。ほとんどのホームレスは酒かドラッグか、しばしばその両方の問題を抱えている。多くはメンタルヘルスに問題があったりトラウマに苦しんでいたりする(子供時代の虐待のせいであることも多い)。僕が住んでいる地域はとても失業率が低いものの、ホームレスの人々は就職したり働き続けたりすることができない(あるいは、しようとしない)。

彼らは不幸な星の下に生まれただけの普通の人々で、同情を受けるに値するのだと、僕は考えようとするのだけれど、それよりもただただイラつくことのほうが多い。

僕が思い切ってこのことについて本音を打ち明けたのは、何年も前にホームレス支援団体で働くホームレス問題専門家と話したことがあり、その人から、僕のような人間は彼の目的のために役立つと言われたからだ。ホームレスの人々は選挙で投票もしないし、たいした同情も集めないが、中流層の有権者たちがホームレスにうんざりすれば、当局も対策を施さなければならない時がきたと考えるようになる。

ブレア政権は、予想していたよりもホームレス問題が解決できそうなものであることを悟った。多くのホームレスは、その状況から救い出されれば自滅的な振る舞いを確かに改める。支援プログラムやリハビリサービスやシェルターには費用がかかったが、思いがけないメリットも生じた。警察やNHSのコストも削減できたし、中毒者は万引きの常習犯であることが多いから、企業や商店のカネも無駄にならずに済んだ(彼らは強盗事件もよく起こす)。

だから、僕がホームレスは好きじゃないというのを大目に見てもらいたいし、彼らへの対策がもっと取られてほしいと僕が思うのも理解してもらいたい。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、退任前にミリー氏らに恩赦 トランプ氏の

ワールド

トランプ氏、パリ協定から離脱へ

ワールド

トランプ氏、米大統領に就任 「黄金時代」を誓う

ワールド

台湾南部でM6.4の地震、台南で建物損壊 台北でも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブーイングと擁護の声...「PR目的」「キャサリン妃なら非難されない」
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 6
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story