グリーンランドに「フリーダムシティ」構想、米ハイテク投資家がトランプ政権に進言の動き

4月10日、トランプ政権がデンマーク自治領グリーンランドの併合に意欲を見せる中、シリコンバレーの一部ハイテク投資家が、この氷の島をいわゆる「フリーダムシティ」、つまり企業規制が最小限の自由至上主義のユートピアの建設地として推進しようと動き出している。グリーンランド・ヌークで3月撮影(2025年 ロイター/Leonhard Foeger)
Rachael Levy Alexandra Ulmer
[10日 ロイター] - トランプ政権がデンマーク自治領グリーンランドの併合に意欲を見せる中、シリコンバレーの一部ハイテク投資家が、この氷の島をいわゆる「フリーダムシティ」、つまり企業規制が最小限の自由至上主義のユートピアの建設地として推進しようと動き出している。
事情に詳しい関係者3人がロイターに明らかにしたところでは、議論はまだ初期段階だが、トランプ大統領が駐デンマーク大使に指名したケン・ハウリー氏はこの構想を真剣に受け止めている。同氏は数カ月以内に議会で承認され、グリーンランド買収交渉を主導するとみられている。
ハウリー氏はかつて、こうした規制の少ない都市の推進派として知られるハイテク界の大富豪ピーター・ティール氏とベンチャーキャピタル会社を共同設立したことがある。また、ハウリー氏はトランプ氏の側近でもあるイーロン・マスク氏の長年の友人でもある。
関係者の1人によると、この構想には、人工知能(AI)ハブの建設のほか、自律走行車の導入、宇宙船発射場、超小型原子炉、高速鉄道の拠点整備が含まれる可能性がある。
シリコンバレーでは、米国を含む世界各地で規制の少ない都市を建設しようという動きが以前からあり、グリーンランドでの構想はこれを反映している。トランプ氏自身も2023年の選挙活動の動画で建設実現を約束していた。支持者は、この構想を「スタートアップ都市」や「チャーター都市」などさまざまな名称で呼んでいるが、共通の目標は広範な規制免除によってイノベーションを促進することにある。
グリーンランドはテキサス州の約3倍の面積で、人口はわずか5万7000人。しかし、軍事基地を構える米軍にとって戦略的に重要な島であり、レアアースを含む豊富な鉱物資源がある。トランプ氏は、デンマークが売却に応じない場合、軍事力による接収の可能性を排除していない。トランプ氏は3月末にバンス副大統領がグリーンランドの米軍基地を視察した際、「グリーンランドは我々が保持しなければならない」と改めて発言した。
バンス氏は妻と共にグリーンランドを訪問したが、米国による併合に圧倒的に反対するグリーンランド住民の抗議行動を引き起こした。グリーンランドはデンマーク領だが、自治政府が置かれている。グリーンランドのニールセン首相は、米国側の訪問は「敬意の欠如」を示すものだと反発した。
デンマーク政府は、米国のテクノロジー投資家がグリーンランドにフリーダムシティを建設するという構想についてコメントを控えた。グリーンランドも回答しなかった。
<新・明白な天命>
フリーダムシティ運動は、米国の新たなフロンティア開拓という夢の実現を目指したもので、そのルーツは1800年代の西部開拓時代へのノスタルジアにある。グリーンランドへの進出は「新たな『明白な天命』の幕開けとなる可能性がある」と、テクノロジー投資家のシェルビン・ピシェバー氏は述べた。「明白な天命」とは、アメリカは領土を征服するという神から与えられた使命のある特別な国家だという19世紀の思想を指す。
リバタリアンで初期のトランプ支持者だったティール氏は2009年の著書で、もはや民主主義は自由と両立せず、宇宙の植民地化や海上居住によって政治から逃避するべきだとの考えを示している。同じくベンチャーキャピタリストで、マスク氏の政府効率化局(DOGE)の非公式アドバイザーであるマーク・アンドリーセン氏は、サンフランシスコ郊外の放牧地での都市建設を推進するテック投資家コンソーシアムに参加している。もう一人のベンチャーキャピタリストでDOGEの非公式アドバイザーであるジョー・ロンズデール氏も、規制の少ない都市を推進している。
ロイターへの声明で、ロンズデール氏は「我が国をグリーンランドに拡大すること」を喜んだが、同地での都市計画についてはコメントしなかった。
情報筋のうち2人によると、スタートアップ都市運動の主導的な提唱者で資金提供者であるティール氏とアンドリーセン氏は、グリーンランドの拠点設立を支持している。ロイターは、この2人の富豪がグリーンランドでの都市建設のためにトランプ政権に積極的にロビー活動を行っているかどうかは確認できなかった。
アンドリーセン氏はコメントを控えた。ティール氏の広報担当者は、「ピーターはグリーンランドに関するいかなる計画や議論にも関与していない」と述べた。マスク氏はコメント要請に応じなかった。
ティール氏はアンドリーセン氏、ピシェバー氏と共に、ベンチャーキャピタル企業プロノモス・キャピタルに投資している。プロノモスの創業者で、著名な自由市場経済学者ミルトン・フリードマン氏の孫であるパトリ・フリードマン氏によると、同社は世界中で6件のチャーターシティ・プロジェクトを立ち上げている。
プロノモスの出資先である、シティ建設ベンチャーキャピタル企業プラクシスの共同創業者ドライデン・ブラウン氏はロイターに対し、企業からグリーンランド都市建設の支援について打診があったと明かした。ブラウン氏は昨年グリーンランドを訪れたといい、グリーンランドの過酷な環境が、マスク氏の最大の野望の一つである火星移住の試験場となる可能性もあるとして、グリーンランドでの都市建設を提唱している。
ブラウン氏は11月、火星移住についてのマスク氏の言葉を引用して「火星へ出発する前に、地球に『ターミナス』のプロトタイプを建設しなければならない」とXに投稿し、こう続けた。
「グリーンランドこそがその場所だと信じている、@elonmusk」