コラム

「持ち家絶望世代」の希薄すぎる地域とのつながり

2017年05月12日(金)15時40分

簡単にいえば、「賃貸居住者」は、この問題にあまり利害関係を持っていなかった。彼らはこの道路計画の影響で価値が下がる恐れがある資産を所有していなかったし、もしそんな事態になったら引っ越せばいいのだと分かっていた。

これはあまりにひどい計画だから、町中の住人は、なんなら請願書に署名するだけでもいいから全員で反対するべきだと、僕はがんばって説明したけれど、関心をもってはもらえなかったようだ。彼らは、他の地区に住む持ち家住人よりもまだ関心が低かった。

政治家からも相手にされず

僕がこれまでよく挙げてきたテーマの一つが、この20年ほどでイギリスの住宅が、若い人々にとってあり得ないくらい高い買い物になっているという問題だ。膨大な数の若者が賃貸住宅に住み、家を所有する望みすらほとんどない状態に陥っていることに、僕は憤りを感じている。

家を持つということには明らかな経済的利点があるが、それだけではない。安定した住居を持たない人々は家族を持つ時期が遅れ、子供の数が少ない。社会と敵対する可能性もある。いわば「締め出された」世代なのだ。こうした若者たちは一般的に社会との関わりが少なく、選挙に投票する人も格段に少ない。僕がこの小さな通りで目にしたことは、まさにこの現象を裏付けているようだ。

僕たちの地元政治家たちが、ただ自らの利益で動いていたとは思わない。彼らは正真正銘、道路計画に欠陥があると考えた。でも彼らは一票を投じてくれるかもしれない有権者に好印象を与えるために、僕たちの集会にやってきた。彼らは僕たちと関わることで票を獲得できると考えた(今回の場合、実際そうだった)。

そんな彼ら政治家が会わなかったのが、僕たちとは関心の方向性が全く違い、疎外され、怒りを抱えた(でも行動は起こさない)、この通りに住む大勢の若者たちだ。つまり、持ち家の住人は、彼ら「締め出された世代」よりもこうした問題に関わり、選挙で投票する可能性が高いというだけでなく、政治家と話をして関心事を取り上げてもらえる可能性も彼らより高いのだ。

市民参加は民主主義が機能する上で不可欠の要素だ。多くの人々が当事者になれないような状況は、脅威になる。

【参考記事】抜き打ち解散を宣言したメイ英首相の打算(付表:欧州詳細日程)

***


ちなみに、イギリスで地方選挙(5月4日)と総選挙(6月8日)がこんなに近い日程で実施されるのは珍しいことだ。一説によれば、以前から日程が決まっていた地方選挙で労働党が惨敗し、その結果ジェレミー・コービン党首が辞任を強いられるかも、という事態をテリーザ・メイ首相が恐れたからだとも言われている。

だからこそ彼女は、総選挙を地方選直後の6月に設定することで、新生労働党の、コービンよりは選挙に有利であろう新党首と対決する可能性をつぶしておいたのだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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