コラム

ファイザーワクチン「5回」問題はなぜ起きたのか。特殊な注射器なら6回分、米欧では1カ月前に表面化していた

2021年02月12日(金)13時00分

CNNの報道によると、例えば、注射器を作っている会社がイタリアに100本を送ろうとしても、大統領が米国にとどまらせる必要があると判断したならば、そのサプライチェーンを中断させることができると、わかりやすく解説している。

つまり、法律上では、アメリカ大統領は自国民を優先させて、ワクチンや注射器に輸出制限をかけることができるようになったということだ。

ただし、同法の中にある、この「配分(割り当て)」の権限は、1970年代の冷戦時代に使われた時以来、使われたことがないという。一般的には「優先順位付け」の権限によって、政府の契約が優先されるようにしているそうだ。

ベクトン・ディッキンソン社は、ワクチン接種用の注射器を合計10億本以上生産し、そのうち2億8600万本を米国で生産することを約束している。すでに2020年末までに1億5000万本の注射器を米国に納入しており、残りは3月までに配布する計画だという。

それで日本の場合はどうなる

朝日新聞の報道によると、厚労省の担当者は「あくまで総回数(1億4400万回分)で契約を結んでいる。これからファイザーと相談する。減るかどうかは現時点では何とも言えない」としているという。

となると、まずチェックするべきことは、ファイザー社は何瓶、日本に納品するのかということだ。

「5回分」とするなら2880万瓶、「6回分」とするなら2400万瓶となるはずだ。

おそらく6回分の2400万瓶が納入されるのだろう。欧州での前例を見てもそうだし、日本では既に同社から「1瓶につき6回分とれる」と伝えられていて、厚労省は1月にあった自治体向けの説明会でも同様の説明をしていたということなので。

しかし、上述の欧州での経緯を見ていると、ファイザー社も完全に強気にはなれない感じがする。日本側としては「欧州では、6回分の投与の許可と、配送量の減少には、直接の因果関係はないと説明しているではないか」「そんな変更をいきなりされても困る」と、はっきり主張することは可能だろうし、するべきだと思う。

もちろん同社から「6回分」と言われていたのに(いつ言われたのだろう?)、早めの対策を取ることも、素早く抗議をすることもしなかった日本側にも問題はある。でも、100%日本側が悪いとは思えない。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story