コラム

ファイザーワクチン「5回」問題はなぜ起きたのか。特殊な注射器なら6回分、米欧では1カ月前に表面化していた

2021年02月12日(金)13時00分

フランスの『リベラシオン』によると、現場の反応は様々であるという。

フランス自由医療連合組合(UFML)のマーティ会長は「適切な機器がなければ、6回分の投与量を抽出することはほぼ不可能」と語る。

南仏のApt 病院センターでは、注射器の準備を一元化して、設備が整っていて経験豊富な人々に注射器の準備を委託することを選択した。

また多くのところで、納品された標準装備ではなく、病院で広く利用されていて、ワクチン残量が少ない、いわゆるツベルクリン注射器を使用していると言う人が多いとの報告があったという。

バイデン大統領のコロナ対策

ところで、重要なのは当のアメリカの動きである。

バイデン大統領は1月21日、就任2日目に「国防生産法(the Defense Production Act)」に署名した。

imai2021104302.jpg
コロナ対策のための国家戦略の法律に署名するバイデン大統領。後ろにハリス副大統領(写真:ロイター/アフロ)

これはコロナ対策のために、大統領と当局が民間企業に特定の商品を緊急に生産することを強制することを認める法律である。

大統領は1月25日、ワクチンの展開に再び自信を示し、米国は夏までにコロナウイルスからの集団免疫に近づくだろうと述べた。

これに関連して、注射器のベクトン・ディッキンソン社は「米国政府と積極的に協力して、ワクチンの残量が最小化する注射器と、あらかじめワクチンと針が装填された1回使い切り使い捨て注射器(Prefilled Syringe)による解決法について議論している」と、カークパトリック広報館が述べている。

「2020年春に米国政府との間で注射器ニーズの計画を始めたとき、ワクチン残量最小化の注射器に焦点を当てていたわけではなく、他のデバイスを優先していた」ということだ。

輸出制限も可能だが・・・

この法律は、もともとは1950年朝鮮戦争の時にできたものだ。

アメリカは自由を尊重する国なので、国家がビジネスや私企業に介入することは、たとえ規制レベルであっても極力避けられているが、非常時に大統領や当局といった政治が介入することができるようにするための法律ということだろう。軍事や災害対応の場合に発動される法律である。

連邦緊急事態管理庁の説明によると、「軍事、エネルギー、宇宙、国土安全保障プログラムを支援するために、大統領が米国の産業基盤からの資源の供給を迅速化し拡大するための、権限の主要なソース」ということだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story