コラム

なぜ中国がTPPに加盟申請? 唐突ではない「アジア太平洋自由貿易圏」と「一帯一路FTA」構想

2021年09月22日(水)19時55分
2014年に北京で開かれたAPEC会議

2014年11月に北京で開かれたAPEC会議。当時TPPが強力に進められていた KIM KYUNG HOON-REUTERS

中国がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に加盟を申請した。

多くの人にとっては、TPPとは、アメリカが主導した「中国包囲網」と映っているだろう。オバマ大統領が推進した戦略だが、2017年トランプ氏の大統領就任と同時に、アメリカが離脱してしまった。

それでも日本が主導して、アメリカ抜きでも11カ国の「TPP11(CPTPP)」として始動させた。これは日本の素晴らしいリーダーシップと言ってよいだろう。

それなのに今、中国がTPPに加盟申請。

中国は何を考えているのだろうか。

「中米が共同して」

転機は、トランプ大統領がTPPからの離脱を表明したことだ。

総じて中国メディアでは、アジア・太平洋地域における「メガFTA(巨大な自由貿易協定・貿易圏)」の構築で、中国の役割に期待する論調が目立ったという。

対外的に発展しようとする戦略上、中国が最も警戒しているのは、反グローバリズム、保護主義の台頭とその拡大である。

中国は世界最大の貿易大国。保護主義の台頭は、中国にとって見逃すことの出来ないゆゆしき事態なのだ。

しかし、中国は、突然にTPP参加のアイディアを思いついたわけではない。ここに至るには、30年近くにわたるアジア太平洋地域での、長く地道な研究や政府間の話し合いがあってこそだった。

それはAPEC(エーペック・アジア太平洋経済協力)を舞台にしたものだった。

トランプ政権がTPPを離脱した当時、中国の研究機関やFTA研究者による、最大公約数的な見解はこうだ。

「世界第1位と第2位の経済規模をもつ米中両国が、グローバル・ガバナンスで協力するか否かは、世界経済を決定することになる。さらに開放的、かつ一体化した未来を手にするか、それとも、孤立主義に陥るか」。

つまり、中米両国が共同してFTAAP=アジア太平洋自由貿易地域を構築してこそ、アジア太平洋地区のグローバル・バリューチェーンの整合と、ウィン・ウィン関係の構築が可能となるーーというものだったのだ。

ここで出てくる「FTAAP」とは一体何だろうか。

APEC(アジア太平洋経済協力)がもたらした果実

FTAAP、すなわち「アジア太平洋自由貿易地域」は、英語でFree Trade Area of the Asia-Pacificの頭文字をとったものだ。

これは一体何かというと、APEC(エーペック・アジア太平洋経済協力)で提唱されたものである。

APECとは、アジア・太平洋地域では最も古い政府間フォーラムである。1989年に創設された。創設には、日本の大平正芳首相と、オーストラリアのホーク首相が中心の役割を果たした。

(余談だが、英語のWikipediaに大平首相の名前が全く出てきません。誰か執筆権のある方、書いて頂けませんか)。

現在、21の国と地域が参加している。

発足当初の12カ国は、日本・オーストラリア・韓国・アメリカ・カナダ・ニュージーランドとASEAN(東南アジア諸国連合)6カ国だ。

(当時のASEANは、シンガポール・タイ・マレーシア・フィリピン・インドネシア・ブルネイだった)。

1991年に中国・台湾・イギリス領香港(当時)、93年にメキシコ・パプアニューギニア、94年にチリ、98年にロシア・ペルー・ベトナムが参加した。

台湾や香港は「国」とはみなされないため、「21カ国」とは呼ばず、「21エコノミー」と呼ぶ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:日米関税協議、投機の円買い呼び込む 先高

ビジネス

中国GDP、第1四半期は前年比+5.4% 消費・生

ワールド

3月訪日外国人は349万人、累計では過去最速で10

ビジネス

ダルトン、フジHDにSBI北尾社長ら12人の取締役
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story