コラム

コロナ後の新しい五輪モデルは「2024年パリが示す」と仏意欲 東京には何ができるか

2020年05月18日(月)14時35分

オリンピック精神のユネスコ登録を

「オリンピック精神」は、かねてよりドゥリュ氏が強く主張するものだ。

昨年彼は、国際オリンピック委員会(IOC)の国際関係部門ディレクターのソフィ・ローラン氏とともに「オリンピック精神を、ユネスコの無形文化遺産に登録を」と、「パリ2024組織委員会」に提案した。

そして昨年10月、同委員会はマクロン大統領とIOCのバッハ会長に同案を提出、ギリシャ、ルクセンブルク、ヨルダンとセネガルの国々と共に協議されることになった。

ドゥリュ氏は「オリンピック精神とは共生、博愛(友愛)と尊敬です」と要約している。

そのように主張していた彼が、今回「一つの場所に、競技を定着させて開催させる」と言い出したのは、妥協したのだろうか。

ただ、以前から彼は「大会は二つの条件のもとに成功します。アスリートがちゃんと受け入れられること、そしてとりわけ予算が尊重されていることです。何よりも重要なのは、赤字を回避することです」と話していた。

新型コロナウイルス危機が起こる前から、費用の問題とオリンピック精神の問題は、ドゥリュ氏の主張のコアだったようだ。

にじみ出る危機感

ドゥリュ氏の論調には、危機感がにじみ出ている。今回France Infoに出したトリビューンの中で、「オリンピック精神の原則に忠実であれ」と訴えている。

彼は「五輪は有用である。ましてや危機の時代には」ということを、滔々と述べている。フランス人というのは、哲学的な演説調のセリフを好む傾向があるのだが、それだけではないと感じさせる、深刻な焦りが感じられる。

東京オリンピック延期の費用の負担もかさみ、これからコロナの影響で世界的な不況が訪れることが予想されるために、世界で「五輪不要論」が浮上すると考えているのではないか。これは彼だけではなく、五輪関係者に共通した不安なのかもしれない。

オリンピックには莫大な費用がかかる。

東京五輪については、昨年12月4日、会計検査院が、関連事業に対する国の支出が約1兆600億円に達しているとの集計結果を公表している。パリ五輪は約68億ユーロ(約8000億円)、その次のロサンゼルス五輪は約70億ドル(約7500億円)の予算と言われている。もはや金持ち国の贅沢イベントとなっている。

開催国内では「税金の無駄使い」という批判が絶えることがない。そこに来て、このコロナ危機である。「そのように費やすお金があるのなら、国民と仕事を救済しろ」「医療にお金をまわせ」という声が出るのは必至である。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story