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福島県沖地震後にもっとも拡散した外国人関連ツイートは、ヘイトではなく安全情報だった
地震と外国人(中国人、韓国人)に関するツイートの抽出には、先行研究「熊本地震の際の「インターネット上の災害時「外国人犯罪」の流言に関する研究 ─ 熊本地震発生直後のTwitterの計量テキスト分析─」(曺慶鎬、応用社会学研究 2018 No 60))を参考にした。
問題発言とそうでない発言の判別に当たっては、リツイート回数の多いツイートの内容を確認の上、判別に適したキーワードを順次加えて精度をあげた。ツイッターは140文字という制限上、必ずしも自然言語処理ではうまく処理できないことも多い、という指摘もあり(鳥海不二夫 、ヤフーニュース、2020年7月8日)、今回は少数のツイートに占有されていたので上位ツイートの内容を人間が確認する方法を取った。
差別ツイートが多いという先入観のために見えにくかったツイート傾向
地震発生は2月13日23時09分、翌日午前2時に筆者はキーワードは「韓国人(およびその蔑称)」でデータを取得した。数を甘く見て、取得ツイート数の上限を1万件に設定していたため全数を取得できなかった。取得したツイートの内容を見る限り、差別やヘイトは多くはなかった。たとえば「井戸」と「毒」を含むツイートはわずかに8件のみだけだった。その後、午前4時に「井戸」と「毒」の言葉を含む2月13日23時09分から2月14日12時までのツイートを取得した。
地震発生後からジャーナリストの津田大介は問題のある差別やヘイトツイート見つけては「通報しましょう」と呼びかける活動を行っていた。ざっと確認した範囲では24ツイートを取り上げ、後にそのうち15のアカウントが凍結された。そのうちのひとつのアカウントは1万4千を超えるフォロワーを持っていたが、すぐに凍結された。
その後、「井戸」と「毒」を含むツイートの数が想定よりもはるかに少ないことなどから、差別やヘイトツイートは決して多くはなさそうだと考え、検索用語を変えて再度データを取得することにした。
前掲の熊本地震を扱った先行研究を参考にし、2月19日に検索条件変えて2月13日23時09分から2月14日12時09分までのデータを取り直した。念のため地震直後に取得したデータと照らし合わせ、アカウントの凍結やツイート削除による大きな変化がなかったことを確認した。そして集計した結果、前述のように「外国人差別やヘイトではなく、外国人向のための安全情報」に関するツイートが多数を占めていたことがわかった。
リスク時のツイッター空間が改善されている可能性
震災時のツイッター空間について先行する記事や研究としては、前掲の「2021年福島県沖地震でデマは桁違いに拡散したのか」(鳥海不二夫、ヤフーニュース、2021年2月17日)や、「インターネット上の災害時「外国人犯罪」の流言に関する研究 ─ 熊本地震発生直後のTwitterの計量テキスト分析─」(曺慶鎬、応用社会学研究 2018 No 60)がある。
今回の結果は、差別やヘイトツイートが多くなかったという前者の結果と一致し、デマを拡散するツイートよりもデマであると指摘するツイートの方が多かったという後者と一致している。ただ、外国人向けの情報提供のツイートが非常に多かった点が後者と異なっていた(前者では言及なし)。なお、前者の記事では人工地震について、「桁違いではないがそれなりの数のツイートが拡散された」としている。
リスク時にこうした有用な情報が早い時点で大量に拡散することや、差別やヘイトツイートが早期に減少したこと、井戸と毒に関するツイートが比較的少なかったことなどを考えると、2016年の熊本地震の頃よりもリスク時のツイッター空間は改善されたのかもしれない。
ジャーナリスト津田大介の「通報しましょう」活動によって、拡散力を持っていたと思われるアカウントが早期に凍結されたのも差別やヘイトツイートの抑制に効果があったと言えそうだ。データの推移を見る限り、バックファイア効果(差別やヘイトを批判するために紹介したことが、かえって差別やヘイトを広げてしまうこと)もほとんどなかったようだ。
過去のMITの研究や先日の5大政党に関するツイート分析のデータでは、ネガティブな内容のツイートほど拡散されやすかったが、今回はそれらとはかなり異なる結果となった。状況などによって傾向は変わるのかもしれない。
本稿はあくまでも限定されたデータを元に考察した結果の仮説である。より確かなものにするには、地道にデータの収集と分析を積み重ねてゆくしかない。日本ではSNSに関する基本的なデータがあまり整理されていない。そのためのツールはすでにあるのだから、ツイッター社のフルデータにアクセスできる学術関係者の方の今後の活躍に期待したい。
現在、ツイッター社は学術関係者の方(修士課程や博士課程の方含む)には、フルデータへのアクセスを無償で提供している。これを利用しない手はないだろう。手が足りない時には微力ながら筆者もお手伝いしたい。
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