イタリア事情斜め読み
イタリアから見た欧州のガス価格は1年で10倍に上昇した背景
| 欧州のガス価格は1年で10倍に上昇した。
年前と比較して10倍以上
これは、8月16日にヨーロッパの参照市場で到達したガス価格で明らかになった。アムステルダムで取引されたガスのデリバティブ契約は、メガワット時あたり251 ユーロでピークに達し、その後、メガワット時あたり223ユーロで取引を終えた。
2021年8月末には、価格は27ユーロ前後で変動していた。2022年の第2四半期と比較すると2倍以上である。一方、電力は、欧州エネルギー取引所の本拠地であるライプツィヒでメガワット時あたり540 ユーロのしきい値を超え、イタリアでは国内平均価格が538 ユーロ近くになった。
| ドイツは原子力発電所を稼働させ続けている
ドイツは原発を止めない。
ドイツは、アンゲラ・メルケル政権のときに計画されたように、3つの原子力発電所を今年12月までを目処に閉鎖する予定であった。実際には、現在のショルツ政権では、閉鎖されるべきであった3つの原子力発電所を稼働させ続けることを検討している。
「今も稼働している 3 つの原子力発電所の運転を延長することに意味があるかどうか、非常に慎重に検討している」とショルツ首相は述べた。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、決定はまだ政府によって正式に承認されておらず、議会での賛成票が必要になる可能性があるという。
ストックホルムでの記者会見でショルツ首相が2022年8月16日に行った声明は、エネルギー安全保障に対するドイツの恐れを証明したようなもので、ドイツは供給システムの安定を保証するために、法案の補足である「天然ガス消費に対する課税 (Gasumlage」) 」を秋からさらに課すことを決定したというものであった。
増加は賦課金が 1 キロワット時あたり2.419ユーロ セント (24.19 ユーロ/MWh) であり、企業はガス購入の高いコストを消費者に転嫁する。ロバート・ハベック経済・気候大臣が言うには、この措置は「可能な限り公平」であり、「苦い薬」であると。
しかし、ドイツのエネルギー会社を倒産させないためには必要な値上げである。
ショルツ首相は、「 市民と企業向けの第3の援助パッケージがまもなく到着します。」と発表した。
例えば、年間20,000キロワット時を消費する4人家族の場合、年間約480ユーロ(約6万6千円)の増加に直面するという。ただし、国内の住宅や建物の半分だけが、暖房にガスを使用しているドイツでは、これは一部の消費者に当てはまる。
ドイツは、数日前に欧州委員会に、付加価値税からガスの追加料金を免除できるようにするよう求めた。しかし、8月17日に欧州委員会は、「それは不可能だ」と返答をした。
ドイツの天然ガス消費に対する課税 Gasumlageは、化学薬品産業に年間30億ユーロ以上の費用を負担させることになる。
この見積もりは、月に賦課金が1キロワット時あたりに設定された後のものである。
ガス消費者は、2022年10月1日から有効期限が切れる 2024年4月1日まで、賦課金を支払う必要があり、この賦課金により、ドイツ連邦政府は、ロシアのガス供給不足のために電力会社がガスを輸入する際に発生する追加費用の90%をカバーするための資金を調達することができるという。
しかし、高いガスと電気の価格、および高価な原材料による負担により、多くの生産者が限界点に追い込まれている。
| ウニパー事件
ドイツからガス価格が高すぎることによる債務不履行リスクの例も聞こえてきた。
大規模な輸入グループであるドイツのガス・電力会社ウニパーは流動性危機に陥った。
ドイツ政府はウニパーに2億6700万ユーロ(約372億円)を出資し、株式約30%を保有する国による救済計画の対象となった。ロシアからのガス供給が大幅に減少したため、「顧客との契約を尊重するために、ウニパーは市場価格の高いガスを購入することを余儀なくされた」と説明している。
今年の上半期には、ロシアのガス供給量の減少により、123億ユーロ(約1兆6,900億円)の純損失を記録した。
イタリアもドイツのように多くのサプライヤーは債務不履行のリスクがある。
さらなるエネルギー価格上昇を回避するために、消費者に対応し、イタリア政府はドラギ政権時に「援助令Aid bis」を議会で可決させた。2023年4月 30日まで、電気とガスを供給する企業が契約を一方的に引き上げることを禁止する措置を導入した、いわゆる契約変更の阻止である。
エネルギー経済学者のシモーナ・ベネデッティーニ氏は、
「自由市場でのエネルギー価格を凍結するこの措置によって、卸売調達コストの上昇に合わせて販売価格を調整できなくなると、最終的には消費者にとってブーメランになる危険性がある。」
と説明している。この場合の最終顧客である私たち消費者は、利用可能なオファーが削減されるだけでなく、エネルギー供給会社の救済費用も支払うことになる事も予測されるという。
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価格は変動するが、
しかし、なぜエネルギー価格が上昇し続けているのか?
エネルギー経済学者のシモーナ・ベネデティーニ氏は、
「フランスの原子力発電やイタリアの水力発電の減少をもたらした干ばつなどの偶発的な現象である。しかし、最も重要なのは、本質的にロシアのガス供給の突然の中断の恐れによる卸売ガス価格の変動である。」
と説明している。
8月16日(火)、ガスプロムの警告がまたガス価格を押し上げた。ここ数週間、ヨーロッパへの供給を減らしてきたロシアのガスプロムは、ヨーロッパのメタン価格がこの冬、さらに 60% 上昇し、1,000 立方メートルあたり4,000ドルを超える可能性があると発表している。
ガスプロムは、「メンテナンスの問題」により、ドイツへの供給をノードストリーム 1パイプライン容量のわずか20%へ減らした。しかし、ドイツによれば、これは言い訳でしかないと言っている。
| エネルギー価格の高騰は干ばつも危機の一因
エネルギー価格を押し上げているのは、ウクライナでの戦争をめぐるEUとロシアの間の緊張だけではない。
干ばつも大きな原因で、干上がった川と航行が危険にさらされているという。
例えば、ドイツのライン川の場合では、石炭を運ぶボートが容量の60%で移動しなければいけなくなり、燃料の価格を押し上げている。公共事業に代わりにガスを使用するように誘導された。
そして、水不足は水力発電容量にも影響を及ぼしている。
イタリアでは、テルナ(イタリア全域の送電網を管理する送電事業者)のデータによると、約4,500の既存工場の生産量が2022年前半に40%減少したという。
フランスはというと、エネルギー生産量が減少した。
水不足の緊急事態はフランスの原子力産業にも影響を与えている。
フランスは最近まで、必要な電力のほとんどを原子力発電から得ているおかげで、ロシアからの供給の削減に特に問題なく対処できていた。しかし、熱波で植物の活動は著しく低下し、河川の水温が非常に高くなった、その結果、原子炉の冷却に使用できなくなってしまった。
フランス政府が、5基の原子炉を稼働し続けることができるようにするための緊急特例を決定しなければならなかったほどだ。
水不足の緊急事態に加えて、既存の60基のプラントのうち約20基のメンテナンスが追加された。
これは、フランスの原子力発電がその容量をはるかに下回っていることを意味する。
実際、フランスは、内需を満たすために以前はフランスの黒字に依存していた近隣諸国の国々に頼らざるを得ない。
発電量の崩壊は、いくつかのヨーロッパの電力市場に圧力をかけ、価格の上昇を助長している。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie