イタリア事情斜め読み
イタリアのコロナウイルス後遺症「ポストコビット症候群」
| イタリアの「ポストコビッド症候群グループ」に千人以上が集まった
コロナウイルスに感染し、長らく入院をして治癒し、陰性になって退院をした人は、その後どんな生活をしているのか。
元コロナウイルス感染患者達は、何ヶ月もたった今でも治癒したとは言えない。世界中の何千人もの人々が、いまだに症状や後遺症に悩まされているという。
コロナウイルスは本当に恐ろしいものである。
3か月以上も症状が続くし、コロナウイルスはとにかく長引く。海外では「Long Covid」または「Long Haulers」(文字通り「長距離輸送業者」) と呼ばれている。
この後遺症の症状についてはまだ研究途中であるが、イタリアでは「ポストコビッド症候群」と呼ばれ始め、Facebookで「ポストコビッド症候群グループ」が立ち上がった。
コロナウイルスに感染する前の元の生活に戻ることができないでいるという困った状況や身体上起こっている不具合や後遺症などを書き込みあいながら、コロナウイルス「ポストコビッド症候群」についての意見交換と情報収集をしている。
発起人であるミラノ出身のモレナ・コロンビさん(59歳)は、「ポストコビッド症候群グループ」について、
私と同じように、他の人たちも、気分が悪くなったり慢性的な疲労や関節の痛みや息切れなどの症状があるのか、また、皆さんは努力でどうにかできる最小限している何か方法があるのかなども知りたかったので、グループを立ち上げてみた。
そうすると、すぐにアクセスがあり、短期間のうちに、誰もが多かれ少なかれ同じ症状を持っていることに気づいた。全く後遺症についてを知らない多くの人は、元コロナウイルス感染患者の私たちを"うつ病"または"心気症"だとみなし、職場復帰しても解雇しようとします。仮病や怠けでは決してないし、私たちの抱えている問題は、本当に事実、いまだ自分の身に起こっている症状なのです。
ですが、誰も私たちに信用を寄せてくれようとはしないものです。2度のテストが行われ、陰性になり正常になったという確認がなされると、患者は治癒したと宣言されます。しかし、治癒したわけではないのです。
と語った。
現在までに、グループは1,128人のメンバーが集まった。
身体的、医学的、両方面で同じ不快感と症状を示しているという事実は、多くの証言によって説明されている。
苦しむ人々に共通する症状に、疲労感、脱力感、息切れ、紅斑、記憶喪失、不安および筋肉痛がある。
カターニアに在住のガブリエーラ・アリアノさん(51歳)は、3月13日にCovid-19の感染が確認され、39日間入院した。
彼女は検査で2回陰性が確認された後の4月21日に帰宅したが、症状の発症から5か月が経った今でも、治癒したとは感じていないと言う。退院をした後に、両側性間質性肺炎と診断された。
ガブリエーラさんは、「私はとても疲れていて、すぐに横になっています。関節に痛みが残っていて、右脚には発疹があり、光が煩わしく感じ、耳から聞こえる音はノイズが混じっています。髪をとかしたら束になって髪が抜け落ち、失ってしまいました。」と言う。
ガブリエーラさんが困っている最大の問題は、これまで自分が何を話しているのかを覚えていないことだそうだ。つい先ほどした事もすべて、記憶がすぐに削除されてしまうという記憶障害に悩まされている。
退院し、彼女が家に戻った時、既にその記憶障害があることに気づいた。なぜなら、家族に「家具を全部交換したの?ここは私の家なの?」と尋ね、もう自分の家を認識できていなかったからだ。
| 疲労と記憶喪失
ガブリエーラは病院に入院していたが、多かれ少なかれ深刻な症状であっても入院せずに自宅で隔離療養をしていた人々もいる。その人達も何カ月も続く「Covid後」の問題を抱えている。
バレンティーナさん(45歳)は、3月13日に発熱が出た。その後も1か月以上、熱は続いた。
熱が40度に達した時点で、ミラノの緊急治療室に入った。しかし、彼女はまだ肺炎にはかかっていなかったので、一旦家へ送り帰された。1か月間、一人で高熱の日々を耐えて過ごした。
彼女は、 2度コロナウイルスのPCR検査をし陰性になった。熱は下がったり上がったりし、夕方になると38度の熱が出る。発熱と皮膚の水疱は7月まで続いたという。
8月になり、ある朝のこと、目覚めて地面を見ると自分の髪の毛の束がごっそりとそこに落ちているのが目に入ってきた。
何より、ひどい脱力感に苛まれ、息子と一緒に休暇を過ごしている時でも、すぐに疲れるという。
3週間、何もせずただ横になっていた。やはりバレンティーナにも記憶障害が起こった。
文字を読んでも、言葉が次から次に逃げていくように、読んだ内容を覚えていない。
バレンティーナは建築家で、仕事をするには継続的に読み直さなければならないが、記憶することができないので大変な支障が出ているし、混乱しているという。
| 科学的説明
「ポストコビッド症候群」に関する科学的研究はまだほとんどなく、現在のところ、入院中の人々だけに触れ研究がされている。
ローマの「アゴスティーノジェメリ」IRCCS大学ポリクリニック財団の物理療法やリハビリテーションのチーム長フランチェスコ・ランディによると、
「多岐にわたる専門家達と一緒に調査してみたところ、症状の発症から約2か月後に病棟から退院した人々を対象の被験者としてみた場合、退院して2か月後でさえ、酷い疲労、息切れ、関節または胸の痛み、咳、頭痛などの症状が続いた。私たちが言えることは、臓器の損傷はなく、これらの疾患はおそらく、なくなるだろうということで楽観的に見ています。もちろん、2か月間自宅隔離で家に閉じ込められていた人々でさえ、運動と健康的な食事という良好な生活の土台となる二大原則ができなかったのですから。私がソーシャルネットワークで見た共有レシピには、タンパク質ベースの料理はなく、すべてデザート、パスタ、パン、またはピッツァばかりでした。
私は、大体、1年から次の年にかけて、入院した患者さんの臨床検査をチェックしていますが、コレステロール、血糖、そしてとりわけトリグリセリドが増加していて、これが、筋肉量の損失または非アクティブ化し、体の反応性に微弱な感覚引き起こす可能性があるということを発見しました。」
と、7月上旬に世界で一番初めにJAMAで発表した。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie