
England Swings!
時を隔ててロンドンで出会った音楽のレジェンド2人、ヘンデル・ヘンドリックス・ハウス
そこから彼女の話は止まらなかった。ヘンドリックスは、音楽を聴くのも作曲もインタビューを受けるのも、時には人を呼んでのパーティーやセッションでも、ほとんどベッドの上で過ごしたこと、急激に名前が売れてわずらわしい問題が増えたので、この部屋は面倒から逃れて静かに過ごせる絶好の隠れ家だったこと、などなど。ヘンドリックスは部屋の飾り付けにも熱心で、ここを「自分のままでいられる初めての『わが家』」と呼んだという話が心に残った。
この博物館のスタッフはみんなが気さくで、親切に話しかけてくれた。ひっそりしたヘンデルの寝室を見学していた時には、後ろから「絵画の収集にも熱心な人だったんですよ」という声が聞こえて飛び上がりそうになった。部屋にはわたししかいないと思っていたので慌てて見回すと、ベッドの向こうに見事な白髪のおばあさんが座っていた!
実は彼女も案内係で、ヘンデルにはすばらしいコレクションがあったのに死後に売られてしまったこと、博物館の改装時に一部を買い戻したことなどを詳しく教えてくれた。別のスタッフの話では、このおばあさんは来年100歳になるそうだ。この国の博物館はボランティアの熱意で成り立っているとよく聞くけれど、個性的なこの博物館は働く人たちもユニークだった。
ヘンデル・ヘンドリックス・ハウスのインスタグラム投稿より、ヘンデル邸の展示の一部。英国の博物館は総じて展示が上手だけれど、部屋のあちこちにまだヘンデルがいるかのような演出がされていた。実際に彼が亡くなったベッド周辺はちょっと怖かったくらいだ。
ヘンデル・ヘンドリックス・ハウスには、歴史と音楽と人の暮らしがぎっしり詰まっている。初めはあまりにかけ離れていると感じたヘンデルとヘンドリックスだけれど、考えてみるとどちらも若くして外国からロンドンに渡り、ここで成功や安らぎを見つけている。やはり外国人として21世紀のロンドンに暮らすわたしとしては、それはとても嬉しいことだ。

- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile