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England Swings!
時を隔ててロンドンで出会った音楽のレジェンド2人、ヘンデル・ヘンドリックス・ハウス
ヘンドリックスが当時の恋人キャシーと暮らすために23番地の3階と4階の部屋を借りたのは、1968年のことだった。初めはヘンデルの家が隣だったとは知らなかったものの、それがわかるとヘンデルのレコードを手に入れて何度も聴いたそうだ(ヘンドリックスはもともとクラシック音楽をよく聴いたらしい)。
タブロイド紙に住所が公表されたり、強盗に入られたりしたこともあって、ヘンドリックスは8か月ほどでこの部屋を出ることになり、1970年にはロンドンのホテルで謎の死を遂げている。この時ヘンドリックスは27歳、メジャーデビューからわずか4年後のことだった。
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博物館では生演奏も頻繁に予定されていて、この日はヘンデル邸でバロック音楽の演奏があった。一般の参加者がギターを持ち寄ってヘンドリックスの部屋でセッションするという企画はファンにはたまらなそうだ。筆者撮影
館内では、まずヘンデルの住まいを地下から最上階の4階まで上がったところで隣の建物に移り、ヘンドリックスの部屋や音楽史の展示を見ながら1階に降りる。
ヘンデル邸にある家具や楽器は18世紀に作られたものがほとんどで、ダブルハープシコード、古い形のワインボトルや新築当時のままの床を見るだけで好奇心が刺激された。あちこちで聴けるヘンデルの音楽には現代のテクノロジーを使った工夫が加えられていて、目でも楽しむことができる。威勢よく上がる花火の映像とともに聴く「ハレルヤ・コーラス」では、いっそう晴れやかな気分になった。
4階でつながった隣のヘンドリックス側に移ると、すぐに彼の音楽やライブ映像、当時の写真や映像に大量に触れることになる。ここで頭の中が一瞬で18世紀から1960年代に切り替わった。演出が上手だなあ。
こうしてミニスカート、ビートルズ、サイケデリックアートという世界に連れていかれたところで、ヘンドリックスとキャシーが暮らした部屋を見学する。ヘンドリックスの住まいの一番の見どころだ。
彼らが暮らした時のまま、しかも散らかった状態が再現されたこの部屋には、入り口に立っただけで何か気配を感じた。吸い殻が残る貝の灰皿、床に置かれた2台の電話、走り書きされた歌詞のメモ、ベッドの上に置かれたままのギター(これはレプリカ)。
思い切って中に入ると案内係の女性と目が合ったので、「人のお宅に勝手に入るみたいで」と伝えると、「そう言う人は多いですね。キャシーに協力してもらって、当時を忠実に再現しているんですよ」と教えてくれた。
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- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile