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ラッシャー貴子|イギリス

遺品オークションで見たフレディ・マーキュリーの世界

 展示に続いて、いよいよオークションが始まった。注目された初日にはYouTubeTikTokやサザビーズのサイトなどで生配信されて驚いたけれど、今どきはよくあることだそうだ。それまでオークションをきちんと見たことがなく、軽い気持ちで見始めたら、これもとてもおもしろかった。

 遺品がひとつひとつ興味深いのはもちろんのこと、なんといっても惹きつけられたのは、壇上で取り仕切るオークショニア(競売人)の見事な仕事ぶりだ。この日は世界61か国から電話やオンラインで入札があり、会場以外にも目や耳をあらゆる方向に向けていたはずなのに、落ち着いた口調でよどみなくオークション品を説明し、値段を上げていき、上品なジョークで会場をわかせる余裕もあった。プロの仕事だ。値段がどんどん競り上がっていくのも、入札者の駆け引きも胸が躍って、楽しいエンターテイメントだった。

サザビーズのYouTube投稿より、オークション初日の様子。4時間以上という長丁場を、このオークショニア(サザビーズ・ヨーロッパのチェアマン)は休みなく、ひとりで仕切ったり。スタッフが正装をしているのも興味深い。オークション終了後、どこからともなくテーブルを2回、手を1回叩く音が聞こえ始めた。もうお分かりですね。ウィー・ウィル・ロック・ユー! 会場も大喜びで応えていた(動画の最後で見られます)。

 遺品展を見ながら、フレディの世界がばらばらに散っていくのは残念だと思っていたけれど、このオークションを見て少し考えが変わった。冒頭の写真でフレディが身につけている王冠とガウンは、競りに競って会場にいた男性が50万ポンド(手数料抜き、約9,000万円)で落札した。その瞬間、彼は両手を上げて「イエー!」と立ち上がり、隣の人をハグして大喜び。この男性がファンなのかコレクターなのかわからないけれど、こんなに嬉しいと感じる人がいるのなら、思い出の品をみんなで少しずつ持っているのも悪くない。大スターだったフレディらしく、世界にまたがる大がかりな形見分けをしたと思えばいいのだ。

 本当のことを言うと、こんなに日本のものが多いのだし、湯呑み茶碗のひとつぐらい買えないかしらと初めはわたしも淡い期待を抱いていた。けれども、小さなものでもしっかり値段が上がっていたし(箸5膳のセットの9月初めの入札額は1,100ポンド(約20万円))、何より、わたしのようなにわかファンが持つのは申し訳ない。美しいものを愛したロックスターの遺品は、やはり価値のわかる美術品コレクターか大ファンに渡るのがいちばん、というのが(当たり前の)結論だ。

 このオークションの収益の一部は、フレディの命を奪ったエイズの撲滅をめざすチャリティー団体、マーキュリー・フェニックス・トラストエルトン・ジョン・エイズ・トラストに寄付される。

遺品展スクリーン - 1.jpeg

庭に面したサンルームのドアがわたしはいちばん好きだった。本人がデザインしたもので、くもりガラスに施された繊細なエッチングの柄が透けて壁に映っていた。彼が選んだ高級美術品はもちろんすばらしかったけれど、日用品までこだわっていたようだ。フレディ、リスペクト。筆者撮影

 

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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