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ラッシャー貴子|イギリス

遺品オークションで見たフレディ・マーキュリーの世界

 入場すると、まず展示物の多さに圧倒された。売り出された遺品は約1400組(セットで売られたものもある)。ひとりが所有したコレクションとしては世界最大級のオークションということだ。事情は違っただろうけれど、以前、オードリー・ヘップバーンの遺品展を見た時には、この半分もなかった気がする。それでもさすがサザビーズ、たくさんの品が美術館のように美しく展示されていた。

 お気に入りのものに囲まれて暮らしていたというフレディが選んだ美術品は見事な作品ばかりだった。ピカソ、ダリ、シャガールほか著名な作家の絵画や彫刻、東西から集めたアンティークの家具や装飾品、高級アクセサリーなどは、伝説のロックスターの持ちものでなくても十分に価値が高そうだ。ガレ、ラリック、ティファニーというロマンティックな好みからは物静かで繊細な彼の一面が浮かぶようで、本棚に並んだ何十冊もの美術の本を開くフレディを想像した。

サザビーズのYouTube投稿より、展示された遺品の一部。展示品はとてもすべてお見せできないので、ほんの一部ですが、いつ聴いても気分が上がる「ドント・ストップ・ミー・ナウ」にのせて一気に会場を駆け抜ける気分でどうぞ。

 とはいえ、美術品は主にコレクターの興味の対象であって、会場に詰めかけたファンのお目当てはやはり、クイーンやフレディのメモラビリア(記念品や思い出の品々)だった。受賞した数々の音楽賞の額入りディスク、ド派手なステージ衣装、くつろいだプライベートの写真、足の形に履き慣らされたスニーカー、折り目が軽く日に焼けたTシャツ、エルトン・ジョンから贈られたカルティエの指輪、ティファニー製の口髭用のクシ、よく人を招いて食事したというダイニングテーブルや食器などなど。多くの人が時間をかけて、顔をぐっと近づけたり、一眼レフのカメラで写真を撮ったりしていた。設置されたサザビーズの記帳台に何か熱心に書き込む姿は、もはやフレディを追悼する集いのようでもあった。

 日本人としてやはり気になったのは、日本をテーマにした2つの展示室に、美術品からユーモラスなものまでがあふれていたことだ。日本びいきのフレディには、能登の輪島まで漆の小箱を見に行ったとか、ゴッホが構図を模したことでも知られる広重の浮世絵「大はしあたけの夕立」を2年も探して手に入れたというエピソードも残っている。コレクターがよく集める着物、浮世絵、蒔絵の箱、古伊万里のほかにも、日本語で書かれた美術の本や音楽雑誌、漆塗りの座卓、ユーモラスな猫の人形や醤油さしまで大事にしていたと知って、やはりちょっと誇らしくなり、会場で見切れなかった分はウェブサイトでじっくり眺めた(このリンクからオークションに出された品すべてが見られます)。

遺品展 - 7.jpeg

展示会場に入ってすぐの、In Love with Japan(日本に夢中)と名付けられた展示室。フレディがいかに日本びいきだったかがうかがえる。こうした美術館さながらの展示の中、小さな陶器や人形がぎっしり詰まったガラスケースも時々あって、なんだかものすごいエネルギーを放っていた。筆者撮影

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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