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ラッシャー貴子|イギリス

人生初のウィンブルドン観戦でテニス愛に引き込まれる

会場内に設置されたトーナメント表。この日の試合すべてが表示されていて、これと別に部門ごとのものもあった。試合が終わるとすぐに勝敗を記載するので、ハシゴがかかったままになっている。クラシックな色使いがウィンブルドンらしい。筆者撮影

 先週末、テニスの国際四大大会のひとつ、ウィンブルドン選手権が終わった。最終日の男子シングルス決勝での4時間半におよぶ熱戦は、ピーク時で1130万人がBBCで視聴した(ストリーミングでは410万回再生)。そして優勝したのはスペインのアルカラス選手。20歳の若きチャンピオンが誕生した。

 大会期間の2週間は毎年、もうすぐ夏休みという時期にあたる。テレビでも連日試合が中継されて、国全体が少しだけ浮き足立つ気がする。近所にあるテニスコートにもにわかにプレイヤーが増える。

 会場になるウィンブルドンは、実はわが家から遠くない。少し長めの散歩として歩いて行ける距離だ。大会の時期にはわが家の周辺でも道路や乗りものが混雑して暮らしは少し妨げられるけれど、幸せオーラに包まれて会場に向かう人たちは見ているだけで嬉しいものだし、近くで開かれる世界的なイベントをちょっと誇らしくも思う。

 しかし、そんな環境に長く住みながら、わたしはこれまでテニス大会に行ったことがなかった。一番の理由は、チケットの取り方がよくわからなかったことだ。チケット抽選の応募は前の年から始まるとか、なかなか当たらないとか、当日券はキャンプしたり始発電車で出かけたりして列に並ぶとかいう噂に圧倒されて、抽選に続けて当たった話をずいぶん聞くようになっても、そのままになっていた。

ウィンブルドン・ヴィレッジのインスタグラム投稿より、今年の大会中のヴィレッジの様子。会場から近いこのヴィレッジは毎年この時期、ウィンブルドン選手権をイメージした飾り付けでお祭りムードになる。ふだんは古いパブや個人商店と今どきの店が混じるおしゃれなエリアだ。それでいて、すぐ隣の緑地の乗馬スクールの生徒たちが馬で通ることもあり、のどかなヴィレッジ感も漂い、ちょっとした人気スポットだ。

 だが、チャンスは突然やってきた。大会中盤を迎えた7月10日、朝一番で友人から、「急に行けなくなったから代わりに行って。今日!」と電話があったのだ。のんびり屋のわたしも、この時ばかりは即断だった。この先自分でチケットを手配するとは思えなかったし、近くに住んでいるからには、やっぱり一度は行ってみたい! この日は夫も午前中で仕事が終わるのだ。

 大急ぎで大会のアプリをダウンロードして、あっけないくらい簡単に友人からチケットを受け取った。その日は準々決勝に進出する選手が決まる日で、わたしたちはメインのセンターコートに入れるらしい。なんだかすごいことになってきた。

 チケットを譲ってくれたのは、今年1月にプレミア・リーグの試合にも行かせてくれたマイケルだった。子どもの頃からのテニスファンで自分でもプレーする彼は、ウィンブルドン選手権の運営団体が発行する「ディベンチャー」という債券を持っているのだ。この「ウィンブルドン債」ともいうべき投資の収益の一部として、保有者は大会のチケットを毎年受け取る。ちなみに公式サイトによれば、センターコートの席が確保される5年もののウィンブルドン債は、発行時で1口8万ポンド(現在の換算で約1400万円)だ。

 こうして手に入るチケットは譲渡可能なので、招待に使われたり、ネットで売りに出されたりもする。ネットでの価格は何千ポンド(数十万円単位)にもなるようだ。センターコートなら当日でも買い手がついただろうに、わが家に声をかけてくれてありがたい。持つべきものは、資産家で心の広い友人だ。

ウィンブルドン - 9.jpeg

この日の大会プログラムとウィンブルドン債保有者席に配られるストラップ付きチケット(アプリのチケットを見せて受け取る)。プログラムには当日にプレーする選手名が載っているので、前日の勝敗を反映して毎日印刷しているようだ。ウィンブルドンでは、会場を早く出る観客が好意でチケットをオフィスに預けると、そのチケットはまだ行列している人に安く売られるというのを初めて知った。そういえば、最後の試合のあたりから周りに新しい顔ぶれが見え始めたのだった。筆者撮影

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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