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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

天皇陛下も暮らした伝統の町オックスフォードと学生たち

 さりげないユーモアがあちこちに見られるのも、お人柄がうかがわれて面白い。ご友人が作ったベジタリアンの食事を「何ともユニークというか、あまり私好みではなかった」とやんわり表現されたのはさすがだ。一緒に散歩に出た教授が、雨ですべるから気をつけてと注意してくれたのに、「自らは見事に転ばれた先生の姿も強く印象に残っている」と飄々と書いていらっしゃるところでは、英国らしいユーモアの影響を感じた。

 失敗談も数多く披露されている。共同の洗濯機で洗濯をした時に洗剤を入れすぎて部屋を泡だらけにしたこと、たまたまドレスコードのある日に軽装でディスコに出かけて入場を断られたことなど。陛下がディスコ(今となっては響きも懐かしい)! しかも門前払い! 親しみが湧くと同時に、外国での学生生活をどれほど楽しまれたのか、想像せずにいられない(ちなみに次にディスコに無事に入れた時には夜更けまで踊られたそう)。

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オックスフォード名所のひとつ、「ため息橋」の下を通る自転車。ハートフォード・コレッジの建物をつなぐこの通路は、ヴェニスの有名な橋の名前がつけられた町の名所のひとつだ。交通が発達する前から町が存在していたオックスフォードは道幅が狭く、駐車できる場所も少ないので、移動には自転車がよく使われる。天皇陛下も学生として自転車に乗ったそうだし、今でも町は自転車天国だけれど、元々多かったママチャリ風な自転車に加えてスポーツタイプも増えている。筆者撮影

 はっとさせられたのは、陛下は「外に出たくてもままならない」ので、知らない世界に連れて行ってくれる「道」に幼い頃から興味を持った、という話だ。そんなに窮屈な思いがあったとは想像したこともなかったからだ。考えてみれば、幼いプリンスが皇室の生活を不自由に感じてもまったく不思議ではないのに。

 たとえば、国民と気さくに話をするロイヤルファミリーはわりと身近に感じる存在で、容赦なく批判されたり、現在の王族でも小説や映画やテレビ番組で面白いおかしく取り上げられたりする。それに対して日本の皇族は、失礼があってはならない方々という印象があって、どこか遠くにいる気がする。だから同じ銀行に行ったことのない人種でも、英国の王族の暮らしはなんとなく想像できる気がするのに、皇族の生活はイメージしにくかったのかもしれない。

 陛下は「道」への興味を発展させて、オックスフォードではテムズ川の水運の研究をされた。

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町の中心から北西に30分ほど歩いたジェリコ地区の運河。オックスフォードを舞台にした人気ドラマ『主任警部モース』の原作の小説シリーズ(コリン・デクスター著)のタイトルで聞き覚えがあり、何気なく行ってみたのだけれど、18世紀の終わりに運河が建設されたのをきっかけに産業とともに発展した面白い地域だった。昔の工場労働者の住宅も多く、町の中心とはまったく違う景色だ。運河には今も船が通っている。筆者撮影

 ちょうどオックスフォードを訪ねたタイミングでこの本を読んだので、わたしが見た学生の暮らしと天皇陛下の留学生活が重なって見えたのだとは思う。陛下が郵便ポストで受け取った、ボートやテニスの練習の日時を告げる「ぼろぼろの紙」は、今ではきっとメールやWhatsApp(日本のLINEのようなアプリ)に取って代わっているだろうし、学生生活にコンピュータは欠かせなくなっているだろう。けれども、ガウンの袖をぴろぴろさせながら町を闊歩する彼らを見ていると、オックスフォードの学生の暮らしは長い歴史の中ではやっぱりあまり変わっていないんじゃないかという気がしてくる。

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町のハイストリート(メインの通り)の東側にあるチャーウェル川などで、オックスフォード名物の「パンティング」が楽しめる。竿で漕ぐパントという船に乗ることで、もうひとつの有名大学があるケンブリッジの名物でもある。自分で漕ぐもよし、係の人に漕いでもらうのもよし、船には乗らずに川岸の植物園からそれを眺めるもよし。この写真の日は突然夏のような陽射しが訪れた日で、土曜ということもあって乗り場には長い行列ができていた。筆者撮影
 

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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