England Swings!
起源は中世にあり、母の日は3月か4月
では、その母の日に英国人はどんなことをするかというと、何はなくとも、まずはカードを贈る。カード文化が深く根付いている英国では、誕生日、クリスマス、結婚記念日、仕事の引退、感謝を伝えたいときなどなど、大人も子どももとにかくカードをよく贈る。母の日も例外ではない。
母の日が近づくと、スーパーにさえカードの特設コーナーが設けられる。正面から愛を伝える正統派、ポエム形式になったもの、ユーモアのあるもの、さまざまなカードが並んでいて楽しい。よく見ると、「母の日に寄せて、妻に感謝」「おばあちゃん、ありがとう」というカードもあった。
メッセージの定番は「ハッピー・マザーズ・デー」だ。これは日本の「お母さん、ありがとう」に当たると思う。子どもの手作りカードによく書かれる「サンキュー」という言葉は、印刷されたカードではあまり見かけない。わたしが見たカードでは、「自分の母親でいてくれてありがとう」と母親の存在に感謝をしていた。特に大人になると、日々の感謝よりも、母親を讃える言葉を伝えるようだ。
カードには、「世界最高のママ」「ビューティフルなお母さん」「愛してる」と、日本人は照れてしまうような言葉が並んでいる。英国人もシャイな人たちではあるけれど、ビューティフル、ワンダフルと子どもに言われた母親たちは、素直に「ありがとう」と応じているようだ(女性の方が褒め言葉を受け入れやすいのかな。父の日はもう少し抑えたトーンになっている印象がある)。
そしてもちろんプレゼントもよく贈られる。定番はやっぱり花束だ。ただしカーネーションという決まりはなく、バラ、チューリップ、ユリ、旬のラッパ水仙など、何でもありだ。母の日が近づくと、スーパーの店先や大きな駅の構内に臨時の特設コーナーが現れて、当日に向けて花が飛ぶように売れていく。鉢植えや寄せ植えも人気がある。
母の日のプレゼント商戦が激化するのも日本と同じだ。何を贈るかは人それぞれだけれど、日用品よりは、アクセサリー、化粧品、香水、エステのチケットなどが多い印象だ。子育てに忙しいお母さんも、もう孫のいるお母さんも、母の日ぐらいは女性であることを楽しんで、というメッセージを感じる。もちろん、チョコレート、ワイン、家族そろっての食事という食べもの系も人気で、母の日のランチタイムは、パブやレストランが家族連れで大にぎわいになる。
英国の母の日のエピソードでわたしが大好きなのは、当日の朝、子どもが朝食をトレイに乗せて母親のベッドまで運ぶという話だ。まるでお姫さまみたいではないですか。運ぶのは紅茶だけのこともあるし、凝ったイングリッシュ・ブレックファーストのこともある。小さめの花瓶にいけた花が添えられることもある。朝食はなくて、カードや花束を渡すだけというパターンもあるようだ。とにかく朝いちばんで母親を愛を伝えに行く。子どもたちもベッドに上って、ハグやキスをするんだろうな。話を見聞きするたび、にやけてしまう。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile