England Swings!
起源は中世にあり、母の日は3月か4月
3月19日は母の日だった。え、母の日って5月でしょ? と思うでしょ。ところが英国では母の日はだいたい3月、たまに4月になることもある。「だいたい」ってどういうこと? と、また驚かれたかもしれない。
5月の母の日というのはアメリカから伝わった習慣だ。1861年からの南北戦争中、負傷兵の看護に尽くし、戦後も母親の絆をつなぐ活動を続けたアン・ジャービスという女性がいた。彼女が亡くなった後、お嬢さんが彼女を追悼してカーネーションを捧げた日をとって、5月の第2日曜日が母の日に制定されたと言われている。日本には、これが明治末期に渡ってきたようだ。
英国の母の日は、そのずっと前、中世の時代に起源が遡る。もともとMothering Sunday(マザーリング・サンデー)と呼ばれていたこの日は、本来、イースター(復活祭)にかかわるキリスト教の祭日だった。
イースターは磔刑になったキリストの復活を祝うお祭りだ。もともと太陰暦で定められていたので、太陽暦を使う現在では、年によって日が変わる移動祝日になっており、中心となるイースター・サンデーは「春分の日直後の満月の次の日曜日」になる(これだけでじゅうぶん複雑なのに、同じキリスト教でも東方教会では日がまた違うというややこしさ)。
英国の母の日はイースターの日程を基準にするので、イースターが遅い年には、母の日も遅れて4月初めになることがあるのだ。ちなみに今年のイースター・サンデーは4月9日だ。
さらに、イースター・サンデーに先立つ46日前からは、節食や祈りの日々を過ごすレント(四旬節)という期間が始まる。中世の時代には、このレントの開始から4度目の日曜日に働いている街から帰省して、地元の教会を訪ねる習慣があった。この地元の教会のことをMothering Church(マザーリング・チャーチ、母なる教会)と呼ぶので、この日はマザーリング・サンデーと言われるようになった。ここでの「マザー」は、母なる教会のほかに、聖母マリア、母なるものの偉大な存在なども意味するらしい。
当時は、子どもでも10歳ぐらいからよく奉公や行儀見習いに出されていたので、マザーリング・サンデーには大勢の子どもも里帰りをした。教会に行くことが本来の目的であっても、実家に帰ればもちろん懐かしい母親や家族と一緒に過ごすことになる。その事実と、後のアメリカの母の日の影響とが重なって、この日が母の日と認識されるようになったと言われている。
今では母の日はシンプルにMother's Day(マザーズ・デー)と呼ばれるけれど、マザーリング・サンデーという表現もよく見かけるし、マザーリング・サンデーとして信者を迎える教会もあるそうだ。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile