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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

人気が高まる女子サッカーをスタジアムで初観戦

 炎の選手登場に比べると、試合は意外にあっけなく開始され、すぐに周りの応援も始まった。特に音頭を取る人が決まっているわけではなくて、誰かが定番の応援コールを始めると周りが混じって声が大きくなっていく。歌うこともあるし、小さな子どもの声で始まることもあって、自由な雰囲気だ。ボールの動き次第で応援の声に熱がこもったり、「あぁぁ〜」と残念がったり、「ナイストライ(いい攻め方だったよ)!」とあちこちから声があがったり。その場で見聞きするサポーターの反応は迫力があり、ボールを蹴るばんっという音も体に響くようだった。

 この日は悪態をつくような悪い言葉や、サッカーの応援によくある、唸るような歌うような低い「うぉぉ〜、うぉぉ〜」という(わたしにはそう聞こえる)声は聞こえなかった。チェルシーはアグレッシブなサポーターが多いことで知られていて、わたし自身、バスや地下鉄で、試合前から酔っ払って大きな声で騒いだり歌ったり、乗客に絡んだりしたのを何度か見ている(これまでの経験では100%が男性)。試合で「うぉぉ〜」がなかったことをサッカーファンの友人に話したら、「チェルシーなのに?」と、かなり驚いていた。やはり女子サッカーはファン層が少し違うようだ。

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わたしたちの席はシェッド側のバックスタンドの2階で、「立っても構いませんが、安全に」と表示があり、席の前の手すり(レール)で仕切られていた。クラブのサイトによれば、このレールが導入されたのは今年1月とのこと。観客が将棋倒しになる事故(実際にあった)を避けるために一時は立ち見が禁止されたけれど、対策を重ねて少しずつ戻っているようだ。席にはかなりの傾斜があって、前の人が立ち上がっても見づらくならない。席のひとつひとつには「スタジアム内で反社会的な行為を目撃または経験したら報告してください」と書かれて、QRコードまでついていた。筆者撮影

 わたしの周りに座っていたのは老若男女、実にさまざまだった。小さな子ども連れの家族、大きな子どもと一緒に来ているお父さんやお母さん、若者、中年、年配のカップルやグループ。仲間と来ているのに、「いいぞ、そこでパス!」「はずしたか、次は......」とひとり解説をしていた20代ぐらいのお兄さん(彼は観戦しながらスマホでずっとF-1も観ていた!)。すぐ後ろに座っていた大学生ぐらいの男女カップルは、彼の方がサッカー解説や外国旅行の話で彼女の気を引こうとしていて、ほほえましかった。

 サッカーのスタジアムでは女子トイレに行列ができないと聞いていたけれど、この日はしっかり列が通路まではみ出していた。わたしが見た範囲ではトイレの数の男女比は2対1。ふだんのプレミアリーグの試合では男性の観客の方が多いということだろう。

 かんじんな試合の方は、前半でチェルシーが3点入れて、シェッド・スタンドは大盛り上がり(残念ながら試合の写真や動画は撮れません)。拍手では物足りず、壁や空いている椅子を叩いて大きな音を出していたけれど、暴力的な感じはまったくなかった。後半にはスタジアム全体でウェイブも発生してお祝いムードさえ漂った(ウェイブ、楽しかった!)。後半、トッテナムは少し勢いが戻ったものの、そのまま無得点に終わり、3対0でチェルシーが勝った。

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試合後のスタジアム前の大通り。観客がどっとスタジアムから流れ出るので歩行者天国になっていた。試合の日にバスが迂回する理由がこれでよくわかった。道端でグッズを売る露店にはまだまだ人だかりがしていたけれど、公式グッズの売店があんなに混むなら、露店が繁盛するのもうなずける。試合後も、周辺の軽食店(ハンバーガー、フィッシュ&チップスなど)はどこもサッカー帰りらしき人たちでいっぱいだった。筆者撮影

 これまでの女子サッカーの観客数は4000人前後だったと言われているけれど、この日は4万人強を収容するスタジアムの8割は埋まっているように見えた。その夜のBBCのニュースで、この日は3万8000人が観戦したことを知った。これはチェルシー女子のホームでの試合としては最高記録だ。

 女子サッカーが盛り上がっていると伝えるBBCのこの分析では、家族や友人との日曜のお出かけとしてサッカーを楽しむ新しいファン層が生まれているようだ。そこにEURO以来の女子サッカーのサポーターやクラブ側の宣伝効果も加わって、女子サッカーの人気は今、間違いなく高まりつつある。

 怖いサポーターが少なくて、今ならチケットが取りやすく、おまけにお得な女子サッカー。これからの発展が楽しみだ。

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スタンフォード・ブリッジ・スタジアムの入り口付近の壁には、所属する男女の選手の姿が描かれている。スタジアム前の大通りにも選手の写真が柱に掲げられているのだけれど、最近こちらはすべて女子選手に変わった。英国のサッカー事情に詳しい方の話では、この日のように女子の試合をスタンフォード・ブリッジで開催するのもわりと新しい試みだそうで、女子にもビジネスチャンスを見出したサッカー界は今、女子サッカーの普及に力を入れているそうだ。筆者撮影
 

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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