England Swings!
王様は大変な職業、新国王チャールズ3世誕生
エリザベス女王の葬儀も終わり、ロンドンにも日常が戻ってきている。
これからは国王チャールズ3世の時代になる。それなのに、新国王は即位早々、万年筆のインクが漏れたくらいで癇癪を起こしているところを世界中に発信されてしまった。新国王は大丈夫? という声も聞こえている(インク漏れの動画をご覧になってない方はこちらをどうぞ)。
でも少しだけ待ってほしい。チャールズ国王はこれまでに立場上控えるべき政治的発言や問題発言をして物議をかもしたこともあって、王としてこれから身につけることは多いのかもしれない。昔ながらの貴族らしく気取っていると感じる人も多い。実はわたしも特にファンというわけではない。でも、女王が亡くなってからの一連の行事を観察していて、国王になるのは大変なことだと同情し始めている。
というのも、女王の喪中だった10日間、同時進行で新国王即位の儀式が次々と行われたからだ。チャールズ国王は、母親を亡くした直後、悲しみの真っ只中で、葬儀に向けた行事に出席しつつ、国内各地でたくさんの人に祝ってもらわなければならなかった。それはふつうの喪中とはほど遠い状態に思えた。
BBCニュース - 【全訳】 チャールズ英国王、母エリザベス女王を追悼 ウィリアム王子を皇太子にと発表https://t.co/9EosPF3RcB pic.twitter.com/LHdcA5jlwr
-- BBC News Japan (@bbcnewsjapan) September 10, 2022
英国の場合、君主が亡くなったその瞬間に王位継承第1位の者がその地位につく。昔の英国を舞台にした映画を観ていると、国王が亡くなると、すぐに新国王に向かって「国王崩御、(次の)国王陛下万歳!(The king is dead, long live the king!)」と側近が叫んだりするけれど、まさにそれだ。これは、「王は亡くなっても政治は継続しなければならない」という古いコモン・ロー(英米法全般、もとは英国の一般的習慣法)の考えだとか、身内であっても王位を争った時代、王がいない間に敵に攻め込まれない手段が必要だった時代からの習慣だとか言われる。悲しみにくれている家族にしてみたら、嬉しくない表現だ。さすがに21世紀の今、エリザベス女王が亡くなった場で「万歳」なんて叫ばなかったと思うけれど(少なくとも報じられてはいない)。それとも、王族にしてみれば当然の習慣で、表現は「万歳」でも不快ではないのかな。
エリザベス女王が亡くなった日の夕方、バッキンガム宮殿の前で国歌を歌い始めた人たちがいた。彼らも、歌詞のGod save the Queen(「神よ、女王をお守りください」、あるいは「女王陛下万歳」)のQueenの部分をすでにKing(国王)に変えて歌っていた。これも、英国の人たちにとっては単なる決まり文句で、何でもないのだろうか。映画なら客観的に見ることができるけれど、実際に目の当たりにすると、切り替えが早過ぎるようで戸惑ってしまった。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile