England Swings!
マーカス・ラッシュフォード選手が料理を通じて伝えたいこと
サッカーはわからないけどマーカスのことは知っている、という人が周りに増えている。心なしか女性率が高く、わたしもその一人だ。
マーカスというのは、サッカーのイングランド代表であり、プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)に所属するマーカス・ラッシュフォード選手のことだ。コロナ対策で無観客で行われている最近の試合でも毎回のように得点をあげて大活躍だが、貧困家庭への食糧支援の活動に熱心に取り組んでいることでも広く知られる。
このブログでも以前お伝えしたように、マーカス(もうファーストネームで呼びたくなるほど大ファンなのだ)は子どもの頃に無料給食やフードバンクからの食糧提供を受けた経験があり、辛い思いを繰り返してほしくないという気持ちで支援活動を行っている。昨年には無料給食を休み中にも続けるよう政府に働きかけて実現させ、貧困問題の認識を広めたという功績で22歳(当時)にして叙勲も受けた。他にもバーバリーなど英国を代表するハイブランドのモデルをつとめたり、子どもたちに大人気だったりと、世界中で注目を集めるナイスガイだ。(過去記事はこちらをどうぞ! ①プロサッカー選手の取り組みで注目される子どもの貧困問題、②ラッシュフォード選手、その後のあれこれ - 新しいプロジェクトは子どものブッククラブ)
こうしてピッチの外でも大活躍のマーカスが、今度は栄養のある料理を家で簡単に作ろうというプロジェクトを立ち上げた。以前から彼は、「給食や食べものを無料で提供するのはあくまで暫定的な措置。貧困による食糧難にはもっと根本的な解決が必要だ」と語っていたので、この企画はそれを実現していく第一歩になりそうだ。
フルタイム・ミールズ(Full Time Meals)と呼ばれるこのプロジェクトでは、低コストでヘルシーな料理を家庭で作ることをめざす。毎週日曜にレシピをひとつずつSNSで発表し(インスタグラムはこちら、フェイスブックはこちらから)、インターネットやSNSを使わない人たちのために主なスーパーの店頭にも印刷版を置く予定だ。レシピの作成と調理指導を担当するのは人気シェフのトム・ケリッジ。ミシュランの星付きレストランを持ち、テレビ番組にもよく登場する英国人シェフだ。彼自身もシングルペアレントのもとで育って無料給食を受けたことがある。
ミシュランシェフのレシピといっても、簡単料理をめざすフルタイムではもちろん凝ったものを紹介するわけではない。なじみのある家庭料理や子どもが好きなメニューを選んで、食材も低所得者などに無料支給される買い物券が使えるものを中心にしている。52種類あるレシピには、冷凍食品によくある白身魚のフライをパンにはさむだけのフィッシュ・フィンガー・サンドイッチ、缶詰を使ったクリーミーなチキンパイ、市販のトルティーヤを使ったピザなど、子どもたちが喜びそうなものがずらり。美食を極めたシェフだからこそ、手間を省いてもおいしくできるレシピを教えてくれるんじゃないかと、実はわたしもひそかに期待している。
It's here! 52 easy to follow recipes posted every Sunday on our official #FullTimeMeals instagram page. Offering the skills and confidence to cook proper food and have some fun doing it. Look out for news as to how each supermarket is supporting the project on social and instore. pic.twitter.com/C7bXd86Yrh
-- Marcus Rashford MBE (@MarcusRashford) April 22, 2021
ここまで読んで、マーカス・ラッシュフォードって超忙しそうなのに料理までするのか! と驚いただろうか。実は、彼は料理をしたことはないそうだ。インタビュー(短縮版のリンクはこちら)で「過去をひとつだけ変えられるなら、もっと前に料理のスキルを身につけておく」と話して、インタビュアーにも「前回うかがった時、お茶をいれるのも大変そうだったよね」とつっこまれている。だが今回、このプロジェクトを通じて彼も一緒に料理を習っていく。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile