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ラッシャー貴子|イギリス

マーカス・ラッシュフォード選手が料理を通じて伝えたいこと

 自分では料理をしなくても、子どもの頃にお母さんが料理するのを見るのは好きだったというマーカス。それで思い出したのが、昨年末BBCで放映された彼のドキュメンタリーだ。見終わった後に、お母さんとの関係がとても印象に残った。マーカスも番組に出てきたお兄さんたちもお母さんのことが大好きで、ことあるごとにむぎゅっとハグしていたのだ。

 シングルマザーのお母さんは、仕事をいくつもかけ持ちして働きづめだったそうだ。それでも5人の子どものお腹を満たすことができず、助けを求めることもできなくて、生活は苦しかったらしい。ただきっと、経済的には豊かでなくても、愛のある家庭だったんだろうな。お母さん、あんなに愛されてるんだもの。苦労をそばで見ていた子どもたちは、少し楽になった今、お母さんを大切にしているんじゃないかな。今のマーカスがあるのも、このお母さんの影響なのかもしれない(このドキュメンタリーは英国内で今も視聴可能、リンクはこちら)。

 マーカスは料理を「生きるために不可欠なスキル」と呼んでいる。「これはすべての子どもたちのためのプロジェクトだ。料理や食事には人が集まってくる。費用の心配をせずにごはんを作って、子どもたちといい思い出を作ってほしい。11歳ぐらいで料理を始めたら家を離れる頃にはばっちりできるんじゃないかな」(複数のインタビュー記事のまとめ)

 4月25日、フルタイム・ミールズが初めて公開したレシピはピーナツバターを使ったアジア風チキン焼きそば(Chicken Satay Stir Fry、動画はこちら)だった。いきなりアジア風だが、甘辛いソースをからめたチキンは英国で人気のメニューだ。レシピ発表の翌日には、トム・ケリッジにスクリーン越しに教えてもらいながら焼きそばを作るマーカスの映像が公開された。

(生の鶏肉を触って「うへぇ」という顔をするマーカスがかわいい。トム・ケリッジによれば、マーカスはとても几帳面に野菜を切っていたそう。レシピ紹介動画にはこれからも英国のカリスマトレーナー、ジョー・ウィックスなど人気者が登場することになっていて、大人も子どもも楽しめそうだ)

 マーカスが料理を始めたのは、自分が覚えることの他にも理由がある。「料理ができない自分の姿を見せることで、間違えてもいい、大したことじゃないよ、と子どもたちに伝えたい。ぼくが新しいことにチャレンジするのを見て、『マーカスもやるなら自分もやってみよう』と思ってくれたら嬉しい」と話している。さすが、われらがマーカスだ。

 フルタイムミールズのインスタグラムでは、家庭で作った焼きそばや、それを手にした嬉しそうな子どもたちの写真が続々と紹介されている(投稿が24時間で消えるストーリー上のみ)。きっとこの中から彼が望むように前向きに考える子どもたちが出てくる、そうであってほしい、と、こちらもピュアな心になって応援したくなってしまう。マーカスの人気がこんなに高まったのは、意義ある支援活動をしていることや若者のロールモデルになっていることはもちろん、見ているこちらの気分までさわやかにしてくれるという理由もあるんじゃないだろうか。

(読書好きのマーカスが計画した子どものためのブッククラブも今年になって本格的に始動した。5月には刊行される初の著書「きみはチャンピオン:才能や好きなことを見つけてベストな自分になろう(筆者仮訳:原題はYou Are a Champion : Unlock Your Potential, Find Your Voice And Be the Best You Can Be)」をはじめ、子どもに本を無料で配布し、感想を話し合うプロジェクトだ)

 今年はアメリカのタイム誌の「次世代の100人」に選ばれて(インタビュー動画付きの記事はこちら)、ますます活躍が期待されるマーカス・ラッシュフォード選手。彼の誠実な幅広い活動をこれからもずっと追っていきたい。

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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