コラム

アメリカ人の想像を絶する日本の「草食男子」

2015年09月16日(水)17時10分

 とすると、選択肢が少なかった昔の人のほうがずっと幸せになりやすかったことになる。

 また最近のアメリカの若者は、付き合っている相手と別れるときも携帯電話のテキ ストメッセージ1行で済ますらしい。実際に会うどころか電話もかけないのだ。

 Azizが書いているのは大げさなことではない。

 先日私の友人が、「13歳の息子が忘れていったiPhoneにメッセージが浮かび上がったのでふと読んだら、たった1行のお別れメッセージだったのよ。それまでガールフレンドがいるのも知らなかったわ。最近の子って冷めてるわね」と、呆れていた。

 このように、インターネットの普及によってアメリカの恋愛事情はどんどん変わっていて、私の年代の人々は「今の若者でなくてほんとによかった」と、正直な胸のうちを告白する。「こんなに面倒なら恋愛なんてしなくてもいい、と思っていたかもしれない」と。

 Azizは国際的な恋愛事情を比較するためにいくつかの国を訪問していて、そのひとつに選んだのが日本だ。彼はかつて訪問した日本が気に入ってしまったらしく、「現地調査(field study)」という言い訳で遊びに行きたかった感がある。コメディアンらしく「美味しいラーメンがあるから」と理由を書いているが、今月ボストンで開催された『Inbound 2015』というイベントでの共著者対談では、海外の恋愛事情で「最も興味深かったのは日本だった」と語っている。

 その理由は、「セックスレスな若者」と「草食男子」の存在だ。

 性欲たっぷりのはずの年齢なのに「触られるのも嫌」という若者がたくさんいるという日本の話に、対談を聞いていた約1万人の聴衆は大爆笑。アメリカ人にとっては、それくらい想像を絶する現象なのだ。

 Azizによると東京と正反対なのがアルゼンチンのブエノスアイレスらしい。ここでは、男女ともに軽く性交渉を持つ傾向があり、本命のほかにもセックスのみの友だちが複数いるのも珍しくないという。こちらのカジュアルさも、アメリカ人にとっては理解しがたいものだ。

 この本を読んで、「アメリカはまだまだ結婚や恋愛に夢を抱いている国なのだ」と再認識した。そして、「たとえ両親がどの国の出身であっても、アメリカ人として育った人はアメリカ式の恋愛観を持つものなのだ」と感心したのだった。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明

ビジネス

米2月総合PMI、1年5カ月ぶり低水準 トランプ政

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story