コラム

「耳をすませば」の舞台、青春の記憶呼び起こす多摩の丘

2019年03月22日(金)14時30分

◆自然との邂逅を求めて

03024.jpg

多摩川=稲城大橋付近

多摩川と言えば、昭和末期の高校時代には、二子玉川の河川敷で仲間と夜中に即興音楽や焚き火をした思い出がある(今では許されないだろう)。河口近くでは、一時期夜釣りをよくしたものだ。都会育ちの僕らにとっては、多摩川は最も身近な自然との接点だった。晴海から2日間にわたって計40km近く歩いてきて、そろそろ自然との邂逅を果たしたいという気持ちも、多摩川へ向かわせる原動力となった。

03037.jpg

ボートレース多摩川

稲城大橋を過ぎた後、河川敷を出た。ボートレース多摩川(多摩川競艇場)方面に歩を進める。そういえば、このあたりはもう府中市。ボートレース場を過ぎてしばし住宅街を歩き、是政橋のたもとで再び多摩川にぶつかった。このまま北岸を行けば、府中駅を経て立川に至る正攻法のルート。でも、僕はあえて橋を渡ることにした。南岸に見える多摩丘陵に惹かれたからだ。

調布スタートの今回は、立川、もしくは日野あたりが到達目標だ。その隠れテーマは、上にも書いたように、「自然との邂逅」。世界で最も都市化が進んでいる東京圏の中で、西に向かって最初に出会う水の自然が多摩川だとすれば、山の自然は多摩丘陵であろう。

03046.jpg

是政橋

◆多摩丘陵の自然の中にある米軍施設

03051.jpg

南多摩駅付近

03052.jpg

南多摩駅付近

03055.jpg

米軍の多摩サービス補助施設。フェンスの向こうで金髪女性が乗馬をしていた

是政橋を渡って南岸につくと、大根を自転車の荷台に載せた"大根カウボーイ"や、これまであまり目にしなかった鉄塔といった、本格的に郊外を感じさせる風景に迎えられた。稲城市と多摩市の境界には広大なゴルフ場(桜ヶ丘カントリークラブ)がある。そして、恥ずかしながら僕はつい最近まで知らなかったのだが、ここには『多摩サービス補助施設』という東京ドーム41個分の米軍施設もある。

僕は、「イデオロギーを持たない」のがイデオロギーだという、政治問題は是々非々で考えるタイプである。米軍がいなくなれば、日本は丸腰同然になるという淡々とした現実があるが故に、米軍の駐留自体には反対ではない。一方で、沖縄本島に行った際には、米軍基地が占める割合の多さに率直に驚いた。沖縄だけを見れば日本はアメリカの植民地だと言われても何も違和感を持たないかもしれない。そうした環境で激しい反対運動が起きるのは、裏にキナ臭い政治的な意図があるとしても、理屈抜きの心情としてはよく分かる。

東京ドーム41個分の『多摩サービス補助施設』は、旧日本陸軍の火薬製造所を接収した武蔵野の自然が色濃く残った丘陵地帯だ。接収当初は米空軍の弾薬庫が置かれたが、やがて弾薬が直接横田基地に運ばれるようになり、遊休化していったという。1969年から、米軍のレクリエーション施設となり、ゴルフ場と乗馬施設などが置かれている。最近車で横を通る機会が何度かあったが、いつも人影は皆無だった。今回はかろうじて乗馬をしている女性の姿が見えたが、東京都が国に対し、アメリカに返還を要求するよう強く求めているというのも、納得できる話ではある。

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

米特使、プーチン大統領とウクライナ巡り会談 トラン

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、4月速報値悪化 1年先期

ビジネス

米3月の卸売物価は前月比下落、前年比の伸び鈍化 見

ビジネス

中国、海外委託の米半導体は報復関税免除 AMD・イ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 7
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 8
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    関税ショックは株だけじゃない、米国債の信用崩壊も…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 9
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 10
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story