コラム

長野五輪の栄光のモニュメントを目指して オリンピック・イヤーに想う日本の未来 

2021年06月15日(火)13時00分

第26回 青木湖 - 白馬ジャンプ競技場
<令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた。>

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「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

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これまでの25回で実際に歩いてきたルート:YAMAP「軌跡マップ」より

◆青木湖から白馬のジャンプ競技場へ

コロナ禍のオリンピック・イヤーである。東京からフォッサマグナに沿って1回15〜20kmを歩き、日本海を目指すこの旅は、2019年2月にスタートした。もともと東京2020オリンピックに合わせてゴールするつもりだったが、ちょうど1年分遅れている。2019年中は順調に進んだが、その後緊急事態宣言・ステイホーム要請が続いているために旅に出にくい日々が続き、ガクンと更新のペースが落ちてしまった。だから、五輪が1年延期されたのは個人的には大歓迎であった。これから少しピッチを上げれば、なんとか五輪に合わせてゴールできそうだ。

今の時代、前回の東京大会が開かれた1964年ほどにはオリンピック開催が社会に影響を及ぼすことはないだろう。それでも、2021年が戦後日本の2つ目の節目になることを願う。前回の東京五輪が焼け野原からの再生と成長の始まりの合図だったとすれば、今回は戦後の終わり=敗戦の呪縛から解放された新しい時代の幕開けになると信じたい。実際には、列島の中心をここまで歩いてきて感じているのは、地方から色濃くなっている「日本の衰退」である。でもそれは、「グレートリセット」の前段階だとも言える。このままただ落ちていくのか、それとも、リセットの後に再び日が昇っていくのか。その答えは、「神のみぞ知る」ではなく、我々日本人の意識の向上と実行力にかかっている。

そんなわけで、この旅の隠しテーマであるオリンピックにちなみ、ぜひとも立ち寄りたい場所があった。1998年の長野冬期五輪でスキー競技の会場となった白馬である。とりわけ、日本チームが奇跡の金メダルを獲得したラージヒル団体の舞台となったジャンプ競技場は、日本の戦後のピークを象徴する一大モニュメントだと思う。僕は当時、原田選手らのジャンプを会場で見た。今回は、その白馬のジャンプ台を目指して青木湖をスタートした。

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スタート地点の青木湖。長野五輪のモニュメント、白馬のジャンプ台を目指して歩き始めた

◆リモートワークの普及と「地方移住」の加速の兆し

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グリーンシーズンの青木湖。冬場に比べてみずみずしい光景が広がっていた

信州の高原地帯の桜の開花は例年ゴールデンウィーク頃である。青木湖でゴールした前回は4月中旬だったので、湖畔の桜はまだ咲いていなかった。その時は寒々しい印象を受けたのだが、再スタートした今回は、湖畔の木々が青々とした葉をつけ、みずみずしい風景が広がっていた。また、前回は人っ子一人いなかったが、今回は平日にも関わらず湖にボートを浮かべる釣り人の姿がポツポツと見えた。同じ場所でも季節によってガラッと印象が変わるのは、四季がはっきりしている日本ならではである。

前回の「美しい山岳風景、地方からの没落をひしひしと感じる」で書いたように、日本の地方、とりわけ過疎化が進む山間部では、昭和の高度成長期から平成初期のバブル末期くらいまでに建てられた観光施設や民家の廃墟化が進み、「戦後の終わり」が目に見える光景として眼前に広がっている。この青木湖でもそれは顕著だ。

今、ちょっと検索をかけるだけで、ネット上には「日本の衰退」を語る言論やニュースが溢れている。曰く、<「企業がケチになった」から日本は衰退した>(東洋経済オンライン)、<われわれは貧困化している!?労働賃金減少は先進国で日本だけ>(MONOist)などなど。ソフトバンクグループの孫正義社長も、「モノを作らないと立派な企業ではない」という思い込みによって、日本は「AI後進国」に堕してしまったと語ったと伝えられている。

Newsweek日本版でも、2019年8月の段階で、経済評論家の加谷珪一氏が「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」というコラム書いているし、同氏は先月にも「日本経済、低迷の元凶は日本人の意地悪さか 大阪大学の研究で判明」と書いている。こうした識者の見解は、「ひたすら歩く」ことで今の日本を見るという、僕の愚直なやり方でもひしひしと感じる日本の「オワコンっぷり」を裏付けているかのようだ。でも、春の青木湖畔では、再生の兆しも見えた。建設中のログハウスや湖畔の土地をキャンプ場として新たに整備している若い夫婦の姿があったし、古いセカンドハウスを今風に改装して地方移住の拠点としている建物も目にした。

コロナ禍に功罪の功の部分があるとすれば、リモートワークの普及であろう。東京一極集中が解消されれば、この国はぐっと住みやすくなるはずだ。個人的なことでいえば、僕は2011年から長野県の蓼科高原に自宅を置き、東京に仕事場を持って行き来する生活をしていて、コロナ禍でもその生活スタイルにほとんど影響がなかった。それどころか良い影響の方が大きい。以前は長野に住んでいることを東京の仕事関係の人に知られると営業上不利になるのではないかと、なるべく隠していたのだが、リモートワークが普及してから、山暮らしをむしろ羨ましがられることが多くなった。長野県在住で東京のクライアントと仕事をしていることが、社会的に受け入れられつつあるのを実感する。この青木湖畔でも若い移住者の暮らしぶりが垣間見えたのは、素直に喜ばしいことだ。

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昭和から平成にかけて建てられた湖畔の別荘や観光施設の多くは廃墟になっていた


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一方で、新たに建設されているログハウスも。戦後のリセットからの再生の一歩

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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