最新記事

歴史

戦場に散ったラガーマンたち──知られざる「日本ラグビーと戦争」秘話

2022年8月5日(金)06時20分
早坂 隆(ノンフィクション作家)
太平洋戦争

写真はイメージです TerryJ-iStock.

<あまり知られていないが、戦前の日本には「ラグビー黄金時代」があった。国際試合でも好成績を残していた。しかし、そこに太平洋戦争が訪れる>

日本人が初めてラグビーをしたのは、明治32年(1899年)と言われている。場所は慶應義塾大学。同校の英語講師だったエドワード・ブラムウェル・クラークが塾生たちに教えたのが、記念すべきその「第一歩」であった。

初試合は明治34年12月7日。相手は横浜の外国人クラブだった。結果は5―41で慶大の大敗。クラークはチームメイトらに対し、「柔道を用いよ!(You employ JUDO!)」と叱咤激励したと伝えられている。

「日本人初トライ」を決めたウイングの塩田賢次郎は、相手のフルバックに対して、「そこどけ! 馬鹿者」と叫びながら突進し、トライを挙げたとされる。

昨今、「日本ラグビーは戦後から始まった」と見られる向きが少なくないが、それは誤りだ。筆者は新刊『戦時下のノーサイド 大学ラグビー部員たちの生と死』(さくら舎)で、戦前から戦中にかけた知られざる日本ラグビー史を掘り起こした。

慶大の後、ラグビー部発足の動きは、第三高等学校(旧制)、同志社大学、京都帝国大学(現・京都大学)などへ波及していった。戦前の古都・京都に「ラグビーブーム」が巻き起こったことは、日本近代史の意外な一面である。

一方、東京でも早稲田大学、東京帝国大学(現・東京大学)、明治大学などにラグビー部が発足。関東と関西の学校が共に戦うリーグ戦も開始された。大正時代に入るとブームはさらに熱を帯び、明治神宮外苑競技場で行われる試合は、数万人の観衆で埋まるようになった。

昭和に入ると国際試合も多く行われ、昭和5年には日本代表がカナダに遠征。6勝1分という好成績を残した。昭和9年には、全豪州(オーストラリア)学生チームが来日。慶大や早大などと対戦したが、日本勢は4勝3敗と勝ち越した。全豪州学生チームのマーチン監督は、こう語っている。「日本のラグビー水準は高い」

戦前の日本に華やかなりし「ラグビー黄金時代」があった。そんな時代があったからこそ、近年のラグビー日本代表の躍進や、ラグビーワールドカップ日本大会の成功もある。

だが、そんな「ラグビーブーム」を無情にも引き裂いたのが、先の大戦であった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣

ビジネス

米国株式市場=まちまち、トランプ関税発表控え

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中