顧客に記憶させ、消費行動を取らせるための15の変数
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<驚き、斬新さ、感情、文脈......これらの変数をいかにうまく組み合わせるか。脳科学が解き明かす、顧客に忘れられないためのビジネス戦略>
人の行動の9割は記憶に基づくといわれる。ビジネスにおいては、いかに顧客に自社の商品やサービスを記憶してもらい、消費行動を取ってもらうかが重要だ。だが、そうはいっても、自分にとって重要な事柄を他人に記憶させる方法などあるのだろうか。
『人は記憶で動く――相手に覚えさえ、思い出させ、行動させるための「キュー」の出し方』(小坂恵理訳、CCCメディアハウス)の著者、認知科学者のカーメン・サイモンによれば、答えはイエス。Adobe、AT&T、マクドナルド、ゼロックスなどの大企業を顧客に持つサイモンは本書で、"忘れさせない"実践的なテクニックを紹介している。
そこで重要なのは、驚き、斬新さ、感情、文脈といった15の変数だ。それらをすべて覚えて使う必要はなく、大事なのは組み合わせである。「従来の型にはまらない曖昧な刺激を正しい比率で組み合わせられるようになれば、あなたについての記憶は相手の心に残り、狙い通りの行動が引き出されるだろう」とサイモンは言う。
ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて転載する。第2回は「第1章 記憶は目的のための手段である――意思決定に記憶が重要な理由」から、記憶とは何か、15の変数とは何かについての導入となる項を抜粋する。
※第1回:謎の大富豪が「裸の美術館」をタスマニアに造った理由
(前略)ひとつの要因だけでは、何かを記憶にとどめてもらうことはできない。正しい割合で複数の要素が組み合わされて、はじめて記憶は他人の心に残るものだ。たとえばコーヒーにスプーン1杯の砂糖を入れればおいしくなるが、3杯も入れたら甘すぎて飲めたものではない。同じことは記憶にも言える。驚きは記憶に残る要素だが、あまりにも多すぎると相手は当惑する。驚かされた部分が記憶にとどまる点は変わらなくても、それは本来とはべつの理由からで、思いがけない感情が引き出されてしまう。
では、どのような要素を組み合わせれば、他人の記憶に影響を与えられるのだろう。記憶の変数を正しい比率で組み合わせる方法についてはこれから紹介していくが、その前に、記憶の定義について意見を統一しておかなければならない。記憶は多くの人にとって、多くの事柄を意味するからだ。
最近とった休暇について考えると心に光景が思い浮かぶのは、思い出が記憶されているからだ。久しぶりにプールに入ったときに泳げるのも、嫌いな食べ物について考えるとむかつくのも、スーパーまで迷わずに行けるのも、『モナ・リザ』に眉毛がないことを知っているのも、すべて記憶のおかげだ。これだけ様々なタイプの記憶は、複数の記憶システムによって支えられている。そして記憶を研究するためにも様々な方法があるが、正式な研究においては、情報を符号化してから蓄積して検索するプロセスが記憶だという定義が採用されている。ほかには記憶を持続時間によって分類する方法(短期記憶と長期記憶)もあるし、宣言記憶(言葉にする記憶)と手続記憶(習慣やスキル)に分類する方法もある。
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