最新記事

脳科学

顧客に記憶させ、消費行動を取らせるための15の変数

2017年6月20日(火)21時32分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 いずれのタイプにせよ、すべての記憶はニューロン同士の結びつきによって形成される。ひとつのニューロンが発火すると、それに連動してほかのニューロンもつぎつぎと発火して、パターンが形成されるのだ。そして記憶の研究からは、記憶が複数の変数に影響されることが明らかになっている。そのなかには他人の記憶に影響を与えたいときに自ら制御できるものもあれば、制御不可能なものもある。

 本書では、全部で15種類の制御可能な変数を以下のように特定した。文脈、キュー、独自性、感情、事実、馴染み深さ(条件反射や習慣と関連している)、動機、斬新さ、情報量、妥当性、繰り返し、自己生成的コンテンツ、感覚強度、社会的側面、驚き。

 あなたの話を聞く前に相手がどれだけの睡眠時間をとっているか。これまでにどれだけのコンテンツを消費して、これから新しいコンテンツをどれだけ視聴するのか。それらのコンテンツがあなたのコンテンツとどれだけ似通っているのか。コンテンツにどれだけ触れると特別の記憶が活発になるのか。相手はどれだけのストレスを受けており、気分はどんな状態で、どんな薬を飲んでいるか。これらはいずれも記憶に影響するが、こちらが制御することはできない。しかし、制御できる変数を正しい比率で利用することに集中すれば、効果は発揮される。

 15の変数をすべて暗記する必要はない。このあとの各章では、変数を少しずついろいろな形で組み合わせていくが、少しだけでも記憶におよぼす効果は大きい。

 パワーポイントなどのスライドを共有するサービス「スライドシェア(SlideShare.net)」で人気の高いスライドについて考えてみよう。人間は記憶した事柄に基づいて行動することを考えれば、どのスライドが他人の記憶に影響を与えられるか特定するのは難しくない。良いスライドは心に定着するので「行動」が促され、情報はシェアされ、リンクされ、ダウンロードされ、コメントが加えられ、ほかのサイトに埋め込まれる。

 ちなみに、2015年にスライドシェアで人気が高かったスライドを分析したところ、1位から50位までは、15の記憶変数のうち平均して9つが含まれていた。そして39・7%は「強烈な印象」というカテゴリーに分類され、制御可能な変数が少なくとも5つ含まれていた。ただし、印象が強烈なページが全体の40〜60%のスライドでも、80〜100%のスライドでも、シェア、お気に入り、ダウンロード、コメントなどはほぼ同じ結果を出している。そこからも、コミュニケーションのあらゆる構成要素をフル活用する必要はないことがわかる。変数を少し加えるだけでも行動は促される。

※第3回:なぜ人間は予測できない(一部の)サプライズを喜ぶのか


『人は記憶で動く――相手に覚えさえ、思い出させ、
 行動させるための「キュー」の出し方』
 カーメン・サイモン 著
 小坂恵理 訳
 CCCメディアハウス

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「誰もが気に入る」、波紋広がる「中東のリ

ビジネス

ECB政策金利、いずれ2%に到達する必要=ポルトガ

ビジネス

米24年12月貿易赤字、984億ドルに拡大 輸入額

ビジネス

米ディズニーの24年10─12月期決算、予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 7
    【USAID】トランプ=マスクが援助を凍結した国々のリ…
  • 8
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中