最新記事

経営

81歳の経営コンサルタントが説く、普通の人にいい仕事をさせる仕組み

2018年5月15日(火)11時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

万年赤字会社に闘志を燃やした社長時代

大阪セメントで役員にまで上り詰めていた児島氏は、新会社で常務取締役を務めたのち、子会社のひとつである建材会社の社長に就任することになった。本社の社長を目指していたはずが、子会社の社長という片道切符を渡されたわけだ。

しかも、それは万年赤字の子会社だった。その要因は歴代社長にあった。定年までの腰かけ気分の天下り社長では、社員が本気になるはずがない。当然、業績も上がらない。児島氏自身も天下りだったわけだが、この状況にかえって、自分の力で立て直してやろうという闘志が燃え上がったそうだ。

早速、リーダークラスを集めた勉強会を開いて意識改革を図ったものの、事はそう簡単ではなかった。「長年腰かけ社長の下で培われたゆるんだ風土が体に染み付いていた」からだ。社員の意識を変えるには時間がかかる。そのうちに自分の任期は終わり、また新たな腰かけ社長が来てしまう。

そこで児島氏は、理想論を捨てて、現実論へと切り替えた。とにかく、当たり前のことを当たり前にできるような仕組みを作ることにしたのだ。そのひとつが、挨拶だった。

全社員を集めて、朝は必ず挨拶から始めるように訓示をしたところ、すぐに変化が起こった。だが長続きしなかった。そこで「挨拶は上司から」というルールを設け、それを社長である児島氏自らが積極的に実践し、また、徹底的にチェックもした。しつこいほど「やったか?」と聞いて回ったそうだ。

仕組み作りによって半年で黒字化を達成

「挨拶」と言われると拍子抜けするかもしれないが、この経験を通じて児島氏は、当たり前のことができないのは、人が悪いからではなく仕組みが悪いからだと考えるようになった。当たり前のことを当たり前にできるのは、実は本当にできる人だけであり、普通の人にとっては難しい。

だから、社員のやる気に頼るのではなく、やらざるを得なくなる仕組みが必要になる。言い換えれば、「普通の人にいい仕事をさせる仕組み」だ。ダメな会社は改善策を講じてもすぐ元に戻ってしまうが、理想論ではなく、現実論に基づいた仕組みを構築すれば、改善が持続し、会社は変わる。

ほかには「やるべき仕事」「やらないほうがいい仕事」「やってはいけない仕事」と業務を棚卸しし、「予算は破られるためにある」という社内風土は「予算は守らなければならない」に改めた。そして、目標をより具体的にして、やったかどうかを必ずチェックさせた。

これらを児島氏は「高望みをしない」ことだと述べている。当たり前の目標を達成できてこそ、それ以上を目指せる。それができていないのであれば、まず当たり前のことを当たり前にできるようになることを目指すべきだ。

当たり前のことをやり、やるべき仕事に集中し、予算をしっかり守れば、収支は改善し、本来得られるはずの利益を逃すこともなくなる。できなかった社員も、仕組み化によってやらざるを得なくなることで、できる社員へと変わっていく。こうして、万年赤字会社は半年で黒字化に成功したのだという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中