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コラム
風刺画で読み解く「超大国」の現実 Superpower Satire
スウェーデン中国人観光客「差別事件」で、中国が支払った代償
(c) 2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN
<中国は事実から逸脱した主張で不信感を深めただけでなく、世界的な評判まで落としてしまった>
9月15日、人民日報系のタブロイド紙・環球時報に「中国人観光客がスウェーデン警察に乱暴に取り扱われ、家族3人は墓場に捨てられた」という記事が載った。
記事によると、スウェーデンに旅行に行った中国人の親子3人は予定より早く深夜に首都ストックホルムのホテルに着いたのでロビーで休もうとしたが、ホテル側に拒否された上に警察に乱暴に引っ張り出され、墓場に連れていかれ放置された。両親はスウェーデン警察に殴られ、父は心臓病の発作も起こした......と、曽(ツォン)姓の息子が駐スウェーデン中国大使館に通報した。
大使館は警察の乱暴さに驚き怒り、スウェーデン政府に調査と謝罪を要求すると表明した。
これは明らかな差別事件だ! 怒った中国人たちの罵倒が駐中国スウェーデン大使館のホームページやSNSに殺到した。
ただし、その後、中国人の怒りの矛先は180度変わって親子3人に向けられた。ホテル側が態度を一変させたのは、別のホテルを探しに街に出た曽が、街頭で出会った若い中国人女性を「夜1人で歩くのは危ないから」と、勝手にロビーに連れてきたからで、曽ともめて脅されたと感じたホテル側が、警察を呼んで一家を追い出したことが分かったためだ。
スウェーデン政府が調査した結果、警察側に過失や違法行為、暴力がなかったことも判明。さらに現場の映像がネットに流出すると、中国の人々は「これは完全に当たり屋じゃないか!」と啞然とした。警察に運び出された曽が、わざと自ら地面に倒れて大声で「殺人だ!」と叫んでいた。
中国大使館や中国の官製メディアが曽の言い分をうのみにして外交事件に発展させたのは、おそらくチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の先日のスウェーデン訪問や、中国の人権問題をよく指摘するスウェーデン政府への報復だろう。
事件後、当たり屋を意味する「Pengci(碰瓷、ポンツー)」という中国語のスラングが英語で世界に知られるようになり、スウェーデンのテレビ局は中国人をお笑い草にする番組まで作った。民意をあおる目的の、事実から逸脱した記事で自国民への不信感を深めただけでなく、世界的な評判まで落としてしまった。「過剰反応」した中国にとって高い代償だ。
【ポイント】
禁止大便、中国外交部、环球时报、中国驻瑞典大使
それぞれ「大便禁止、中国外務省、環球時報、駐スウェーデン中国大使」の意味
中国人をお笑い草にする番組
スウェーデン公共放送SVTが事件後に放送した風刺番組の演出で、「所構わず大便するな(禁止大便)」などと中国人を揶揄した
<本誌2018年10月09日号掲載>
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