コラム

中国の大学ではびこる密告制度

2018年09月12日(水)15時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

中国ではそのうち、小学生の間での密告が始まるかもしれない (c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<最近、大学教員が学生の密告で除名・処罰される事件が続き、キャンパス内での密告の流行をみんな怖がっている>

今年の夏休み期間中、「密告をしないことは守るべき人生の最低線だ」という文章が中国のSNS上で話題になった。名門・中国人民大学の呉暁求(ウー・シアオチウ)副学長が今年夏の卒業式で卒業生に語った言葉で、多くの人々の共感を得て大量にシェアされている。近頃、大学教員が学生の密告で大学側から除名・処罰される事件が続き、キャンパス内での密告文化の流行をみんな怖がっているのだ。

北京建築大学の教員は、授業中ずっと携帯をいじっている学生たちの態度に怒り、日本人学生の勤勉さを例に挙げて、「あなたたちも頑張らないと日本に負けて劣等民族になるよ!」と叱ったのが「人種差別」「日本にこびを売る売国言論」として学生に匿名告発され、処罰された。また湖北省にある中南財経政法大学の准教授は授業中、中国政府の憲法改正を批判したところ、学生の密告で停職処分になり党からも追放された。

現在東京に滞在中の北京師範大学の元准教授である史傑鵬(シー・チエポン)も、愛国教育を批判したネット発言が「政治規律に違反した」と密告され大学から解任された。

大学での監視は今に始まったことではない。08年、湖北大学のあるクラスでは学生たちが毎月くじ引きによってそれぞれ自分を監視する「天使」役を決め、行動内容を報告し合っていた。担任はこのやり方で効果的にクラスの規律を強化しようと考えたが、ナチスドイツの秘密警察ゲシュタポのようなやり方が社会の批判を浴びた。

そもそもこれはナチスの専売特許でもない。文化大革命の時期、中国では友達同士や同僚の間、そして家族同士に至るまで互いの監視と密告がかなり盛んだった。文革の失敗を反省した80 年代には一時的に停止したが、89 年の天安門事件以降、大学では「学生情報員制度」という名で密告制度が再開され、ネット世論が盛んになった近年、ますます強化されている。

密告制度は中国の有識者から反発を買っている。有名な経済学者でもある呉副学長が危険を承知の上、卒業式という公的な場所で学生たちに呼び掛けたのは、文革で学問の道を諦めかけた彼自身の体験と無縁ではないだろう。中国ではそのうち、小学生の間でも密告が始まるかもしれない。

【ポイント】
举报坏事、揭发坏人、学雷锋、见义勇为

それぞれ「悪事を通報せよ」「悪人を暴露せよ」「雷鋒(文化大革命でたたえられた模範)に学べ」「正義のため勇敢に行動せよ」

赤いネッカチーフと腕章
少年の赤いネッカチーフと腕章は将来の共産党員予備軍である中国少年先鋒隊のシンボル。腕章の2本線は中隊長の意味

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story