コラム

「ソ連」から移り住んだイスラエルで、海辺を撮り続ける理由

2018年02月16日(金)16時25分

From Alexander Bronfer @bronfer 

<紛争の国イスラエルで、撮る写真の大半は死海やテルアビブの海。本職はエンジニアだというアレクサンダー・ブロンファーの写真には「raw」的要素が備わっている>

「raw」――生の、あるいは偽りがなく本質的な、という意味だ。フォトドキュメンタリーや他のさまざまなアート分野で、この言葉は大きな意味を持つ。「raw」的なものが備わっていれば、作品のテクニカルな面など簡単に凌駕できるからだ。それだけで力強い、特別な魅力を放つことができる。

今回取り上げる写真家も、作品にそんな「raw」的要素を備えている1人である。ウクライナで生まれ育ち、その後、人生の半分近くをイスラエルで暮らしてきた54歳のアレクサンダー・ブロンファーだ。

イスラエルの都市で精力的にストリートフォトグラフィーも撮っているが、ブロンファーの真髄は、彼が心地よく感じる場所と言う「海辺」に現れている。死海やテルアビブの海沿いでのビーチライフである。海辺の美しさと静けさに惹かれ、それを写真で切り取りたい、と彼は話す。

だが、美しさや静けさは、彼の作品が放っている表面的な魅力に過ぎない。本当の魅力は、海辺の日常性の中にある、非日常的な何かだ。そこで生活する人々や、その空間にしばしば本質的につきまとっている、現実離れした不可思議な生活感である。そうした「raw」の人間的要素が、(無意識にかもしれないが)彼の作品には絶妙に織り込まれている。

「Sodom(ソドム)」と名付けらけた死海のシリーズには、特にその傾向が見られる。とはいえ、海辺を美しさと静けさの源と見なしている彼が、退廃と背徳の象徴である旧約聖書の街の名をシリーズのタイトルに使ったのはなぜなのか。不思議に思い、その理由を訊くと、こんな答えが返ってきた。

「それは、死海の中に佇んでいた美しい女性から始まった。その光景はあまりにも素敵で、私は近付いて彼女に話しかけた。だが、彼女はぐでんぐでんに酔っていて、話すことすらできなかった」

そうした相反するかのようなショッキングな差異を経験したことが、死海のプロジェクトをソドムと名付けた理由の1つになっているという。ちなみに、ソドムは死海周辺にあったとされている。

Bronferさん(@bronfer)がシェアした投稿 -

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米政権、大半の輸入品に20%程度の関税を検討 トラ

ワールド

仏極右党首、ルペン氏判決への抗議デモ呼びかけ

ワールド

トランプ氏、エジプト大統領と電話会談 ガザ問題など

ビジネス

金スポット価格が再び過去最高値、トランプ関税懸念で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story