コラム

ロシアの過酷な現実を生き抜いた記憶を写真に収めて

2015年10月14日(水)14時40分

From Dmitry Markov @dcim.ru - Instagram

 ロシアのジャーナリスト兼写真家であるディミィトリ・マルコフは、住んでいる西ロシアのプスコフで、ハンディキャップの孤児や、年配者たち、あるいは彼らの孤独な環境風景をメインのモチーフにしている。ほんの数年前まではプスコフにある孤児院で、ボランテイアとして、労働者として、子供たちの個人教師として、あるいは孤児院の写真家として働いていた。

 テクニック的には平凡な写真家にすぎないかもしれない。だか、彼には天才のみが持つだろう何かがある。人の心を打ち、生の声で真理を呼び起こす何かだ。それが彼の写真を見る者を自然に、また一瞬にして独自の世界に引きずり込む。そしてその瞬間、写真ということなど忘れてしまうのだ。

 実際、彼の写真に初めて触れ、数枚ほど探求していったとき、そうした気分を味わった。押し潰されそうなほど重く、暗い世界に入り込むが、同時になぜか温かく、心地良い感覚の中を漂っていた。まるで最高の音楽に出合い、サウンドそのものを超えて別世界に入り込んでしまったような感覚だ。が、マルコフのそれはあくまでも現実とシンクロした世界。プスコフだけでなく、ロシアの多くの声なき人々の苦悩を代表しているのである。

 そうしたマルコフの類稀な才能は、彼の子供時代の経験が生み出したのかもしれない。彼が育ったのは、モスクワ郊外の労働者の街で、工場労働者の家庭だった。ただ、住んでいた地区の仕事の大半は、その地区で唯一の工場に依存していた。結局その工場が不況により閉鎖され、大量の失業者が生み出された。大人たちは酒浸りになり、子供たちはほったらかしにされ、街をさまよっていた。ドラッグや犯罪がはびこる街を。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感11月確報値、71.8に上

ワールド

レバノン南部で医療従事者5人死亡、国連基地への攻撃

ビジネス

物価安定が最重要、必要ならマイナス金利復活も=スイ

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story