第5回国会選挙が、イラク政界にもたらす新しい風
だが、結局は2006年から8年間一貫して、海外由来のシーア派イスラーム主義勢力の、特にヌーリー・マーリキー(2006~14年首相)率いる保守派が政権中枢を占めてきた。2014年に「イスラーム国(IS)」がイラクの治安を脅かしてマーリキーが退陣すると、同じシーア派イスラーム主義だが中道派のハイダル・アバーディに首相位が移った。しかし、結局、保守派と中道派、そして同じく海外由来のイヤード・アッラーウィ率いる世俗派のベテラン政治家が支配政治エリート層を形成し、その間で権力をたらいまわしにして利権を山分けする構造には変わりがなかった。
一方、少数派のスンナ派は、これらの支配エリートとうまく連立を組んだり(世俗派が主に連立相手になった)、独自路線を追求してキャスティングボートを握ったりして、発言力を高めようとしてきた。
その、支配エリートの権力独占に反発し続けてきたのが、サドル派である。上記の支配エリートと異なり、海外に逃げることもせず、80年代のイラン・イラク戦争、90年代の経済制裁による国際社会からの途絶のなかで、貧困層や若年層の間に支持を広げてきた。反権力、反エスタブリッシュメントを掲げるサドル派には、イスラーム主義勢力だけでなく、世俗派のワーキングプアも合流した。2018年の選挙では、共産党と連立を組んだのである。
サドル派は当選者のほぼ全員が新人候補
2018年以降、サドル派が第1党に選ばれてきたのは、2003年以降海外から出戻ってイラク政治を牛耳ってきた支配政治エリートの与党勢力に対して、有権者が「ノー」を言い続けているからだ。そして、そのことは、各政党の選挙政策、候補者の立て方をみれば、よくわかる。
なにより興味深いのは、サドル派の当選者のほぼ全員が、新人候補である。再選を目指した前職議員は、ほとんどいない。2018年の選挙でもそうだが、中央政府や地方自治体で名を挙げたから当選した、というような例は少なく、地元の「知る人ぞ知る」的な候補の立て方である。無名の党員に次々にチャンスを与える、という方針だろう。
これに対照的なのが、マーリキーやアッラーウィなど、元首相級が率いる与党経験政党である。彼らは、中央政界や地方議会で活躍したとの名声をもとにしたベテラン議員を擁立することで、票を獲得しようとしてきた。
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